この記事でわかること
- 2025年3月期(=2024年度)決算の“数字”を 5社 横並びで整理
- 2026年3月期(竹中は25年12月期)の会社予想と注目テーマ
- 入社後3〜5年で経験できるフィールドと将来性を★5段階で評価
本記事の使い方
- 就活生:志望動機に「●●社の□□技術に共感…」と具体例で深掘り
- 転職検討中:決算PDFを面接前に読み込み、数字感を示す
- 若手社員:他社GX/DX動向を把握し、社内提案の参考に
2025年3月期 業績サマリー

売上高 | 営業利益 | 当期純利益 | ROE* | 2026/3期(竹中は25/12)純利益予想 | |
---|---|---|---|---|---|
鹿島建設 | 2.912兆円 | 1,519億円 | 1,258億円 | 10.2% | 1,300億円 (+3%) |
大林組 | 2.620兆円 | 1,434億円 | 1,460億円 | 12.6% | 1,000億円 (-31%) |
大成建設 | 2.154兆円 | 1,201億円 | 1,238億円 | 13.8% | 800億円 (-35%) |
清水建設 | 1.944兆円 | 710億円 | 660億円 | 7.6% | 750億円 (+14%) |
竹中工務店† | 1.600兆円 | 531億円 | 561億円 | ―(非上場) | 200億円 (-64%) ※24→25/12見通し 竹中工務店 |
*自己資本当期純利益率(各社短信値)
† 竹中工務店の会計期は1月-12月。比較のため最直近(2024/12)値を掲載。
所感まとめ
2025年3月期の決算をざっと俯瞰すると、まず“稼ぎ頭”は依然として鹿島と大林が二枚看板です。鹿島は売上・利益ともに業界トップで、4期連続の増益が続く盤石ぶり。一方、大林は水インフラ子会社(MWH)のフル連結効果で利益額を急伸させ、鹿島とほぼ肩を並べました。ここ2社は 「海外で稼ぐ+再エネで伸ばす」 という共通モデルが奏功しています。円安による好景気を享受した他業界と同様の傾向と言えるでしょう。
収益効率を示す ROE で最上位に立ったのは大成建設です。大型再開発の竣工集中と自己株取得を組み合わせ、資本効率を一段と高めた結果、13%台という高水準を維持しています。景気変動に左右されにくい都市再開発ストックを多く抱えている点も、安定高収益を下支えしています。
清水建設は前年の赤字転落から黒字体質へとV字回復を果たしたものの、利益率はまだ7%台にとどまり、他社と比べると“遅れを挽回する段階”と言えます。大型案件の追加原価負担を整理し、採算管理を立て直している最中で、今後2~3年が正念場です。麻布台ヒルズのダメージが少しずつ癒えてきたという感じでしょうか。
竹中工務店は非上場ゆえ株主還元より長期プロダクト志向を優先できる強みがありますが、24→25年12月期は純利益を大幅に減らす守りの計画を掲げました。製造業プラント向け案件の一時的な端境期と、先端ロボット・脱炭素投資を続けることで利益を抑えている構図です。もっとも残業時間の少なさや離職率の低さに見られるように、内部リソースを磨く“余裕”は健在で、長期的な技術蓄積を重視する人には依然として魅力的な環境と言えます。
総じて、「利益総量で牽引する鹿島・大林」「高効率経営の大成」「回復フェーズで裁量が広がる清水」「長期技術志向の竹中」――という構図がいっそう鮮明になった決算でした。

FY2026 会社予想と注力ドメイン

会社 | ドライバー | 予想コメント(短信・リリース要約) |
---|---|---|
鹿島 | 洋上風力 × 北米不動産 | SEP船2隻体制で秋田/九州案件を深掘り。不動産売却益を定常収益化。 |
大林 | 水インフラ × 低炭素材料 | 米MWHがフル寄与。Clean-Crete®の指名案件拡大。 |
大成 | 国内ZEB × デジタルツイン | 都市再開発一服で減収も、T-eConcrete®でGX需要狙い。 |
清水 | スマートビル × バイオ炭コン | 工事採算改善+SUSMICS-C量産で増益計画。 |
竹中 | 製造業プラント × ロボット化施工 | 売上▲5%・純利▲64%と保守計画。DX&脱炭素投資を継続。 竹中工務店 |
★ 全体観
来期予想は、トランプ政権下での不安定な状況の見方により若干差が出ている。鹿島建設は為替を145円/ドル、大林は135円/ドルで考えているなど、シナリオの描き方に差があることは留意が必要です。
その中でので共通課題は資材・労務費高騰と人手不足。各社とも原価上昇リスクを為替前提や追加請負金交渉で吸収する姿勢が鮮明。
- 差が出る軸:
- 海外事業=鹿島・大林の2強体制が継続。
- GX技術=鹿島(SUICOM) vs 大林(Clean-Crete)に清水・竹中が追随。
- DX/ロボット=竹中が職人作業の自動化で先行、大成がデジタルツインで運営に踏み込む。
若手技術者向け★キャリア診断

会社 | 入社3〜5年で担える可能性領域 | 将来性 | 推奨タイプ |
---|---|---|---|
鹿島 | 洋上風力基礎・北米建築PM | ★★★★★ | グローバル×再エネ志向 |
大林 | 浮体式風力・Clean-Crete R&D | ★★★★☆ | 研究好き×イノベーター |
大成 | ZEB再開発・BIM統合DX | ★★★★☆ | 都市開発×DX派 |
清水 | スマートビルIoT・GX実証 | ★★★☆☆ | 改革期で裁量派 |
竹中 | ロボット施工(T-iROBO)・木造高層PRISM | ★★★★☆ | クラフトマンシップ×長期志向 |
鹿島建設 ―「世界で稼ぐ総合 PM」の道
鹿島の新人は、まず国内の中・大型建築で施工管理の基礎を固めたあと、2〜3 年目で北米や東南アジア現場に“飛び級”する例があるようです。洋上風力・インフラ EPC の比重が大きいため、若手でも 契約交渉や外国籍サブコンとの調整 に早期から触れられるのが特徴。鹿島は海外統括法人での OJT 研修や英語 IT 研修など“バイリンガル環境”の育成制度が整備されており、若手でも英語を用いた PM 実務に早期から触れやすいようです。
大林組 ―「技術イノベーター」としての最短ルート
大林は研究開発費率が業界随一。入社後すぐに Clean-Crete® など実証プログラムへローテーションされる技術系総合職があり、「研究→現場→研究」と往復するキャリアが王道です。北米の水インフラ子会社 MWH とのジョイント案件も増えており、英語力より “技術で語れる力” が評価されがち。30 代前半で R&D のテーマリーダーを任される例もあるため、専門性を深掘りしたい人に向きます。
大成建設 ―「都市再開発 × DX」で食っていく
大成は BIM/デジタルツイン統合の社内制度が最も整備されています。新人でも BIM モデルを起点とした工程最適化やカーボンシミュレーションに携わり、設計・施工・FM の全フェーズを俯瞰で見る力が付くのが魅力。都市部の再開発案件が主戦場なので、安定案件でじっくりスキルを積むイメージです。DX 研修は「構造×プログラミング」など分野横断型で、将来は本社 DX 部門や不動産開発部への転籍ルートも開かれています。
清水建設 ―「改革フェーズで羽ばたく登竜門」
清水は V 字回復の途中段階ゆえ、若手の抜擢が最も起こりやすい土壌です。スマートビルや SUSMICS-C など新規事業の実証現場は、30 代前半が責任者というケースも多い。裁量が大きい反面、業績プレッシャーと“既存慣習の壁”にぶつかることも。組織変革を推し進めるサイドで成長できるか、保守的な雰囲気にのみ込まれるかは本人次第です。
竹中工務店 ―「クラフトマンシップ × ロボティクス」を極める
非上場の竹中は株主の短期目線に縛られず、“質優先”でじっくり技術を磨く文化があります。新人期に木造高層 PRISM や T-iROBO® 施工現場に配属されると、先端ロボと手仕事の両方を体得できるレア体験が可能。残業時間が少なく離職率も低いため、腰を据えて「ディテールに魂を込める」仕事を続けたい人には理想的。ただし海外案件や巨大開発をリードしたい人には物足りなさを感じることも。
働きやすさスナップショット

会社 | 平均年収 | 月残業* | 特色 |
---|---|---|---|
鹿島 | 1,178万円 | 34.7h | 年休取得率69% |
大林 | 1,066万円 | 35.0h | 技研センター充実 |
大成 | 1,025万円 | 35.5h | DX人財募集中 |
清水 | 982万円 | 31.3h | 働き方改革推進 |
竹中 | 1,013万円 | 24.4h (推計) | 離職率1%台、長期視点 |
*月残業は各社公開/調査記事の中央値を採用。竹中は求人情報等からの推定。参考HP<アーキブック>
① 年収水準は「鹿島が頭ひとつ抜ける」構図
公開データを見ると鹿島建設の平均年収は約1,178 万円でトップ。次いで大林組(1,066 万円)、大成建設(1,025 万円)、竹中工務店(1,013 万円)、清水建設(982 万円)の順です。いずれも日本平均(458 万円)を大きく上回り、スーパーゼネコンは“全社 1,000 万円クラブ” というのが実態です。
② 残業時間は「鹿島・大林・大成:35時間前後」「清水:31時間」「竹中:25時間弱(推定)」
- 鹿島は公式サステナビリティデータで月34.7hまで削減しつつ、有給取得率を69%まで引き上げました。鹿島建設
- 大林も就職四季報データで37.5h。働き方改革の成果で“業界平均並み”に落ち着いています。建設 JOBs
- 大成は35.5hと同水準。DX投資を背景に「現場管理の遠隔化」を進め残業減を狙う段階です。Jobree
- 清水は31.3hと5社で最も短く、同社公表値でも年々減少傾向。タレントスクエア
- 竹中は公式数値を出していませんが、転職サイト調査では24.4h前後という推計。現場へのロボット導入(T-iROBO®)が背景にあります。タレントスクエア
③ 離職率は全社 “1ケタ未満” ― 建設業では異例の低水準
- 鹿島・大林は 1〜1.2%台、竹中も新人3年以内離職率5.3%と*建設業平均(10%超)*を大きく下回ります。建設 JOBsタレントスクエア
- 大成(1.8%)、清水(非公表だが社内目標 2%未満)もおおむね同水準とされ、*「辞めにくい」より「辞める必要がない」*職場環境が整いつつあります。Jobree
④ 休暇・柔軟勤務の取り組み差
- 鹿島は「記念日休暇」「ボランティア休暇」など独自制度が手厚く、有給取得日数も12.8日(23年度)と上昇中。鹿島建設
- 大林は現場ごとにテレワーク日を設定する“ハイブリッド施工管理”を試行。
- 大成はBIM/IoTで遠隔モニタリング体制を整備し「週3出社」を示す部署が増えています。
- 清水はスマートビル事業部を中心に裁量労働+コアフレックスへ移行。
- 竹中は非上場ゆえ制度変更を独断で進めやすく、2019年から全社フレックス導入済み。
⑤ ざっくり結論 ― どこが“働きやすい”のか?
視点 | 鹿島 | 大林 | 大成 | 清水 | 竹中 |
---|---|---|---|---|---|
高収入 | ◎ | ○ | ○ | △ | ○ |
残業少 | △ | △ | △ | ○ | ◎ |
休暇制度 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
離職率低 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ◎ |
総評 | 稼ぎ優先派 | 研究+収入派 | DX志向派 | ワークライフ変革派 | 長期技術研鑽派 |
ポイント:給与差は最大でも年200万円弱。むしろ 残業・裁量・学習機会 の質的ギャップが中長期キャリアを左右します。自分が何を重視するか、数字と実際の制度を重ねて見極めましょう。

まとめ
まとめ①|数字で読む
- 稼ぎ頭:鹿島・大林が売上&海外で双璧
- 高効率:ROEトップは大成、盤石の都市再開発ストック
- V字回復:清水は採算改善フェーズ、若手に大チャンス
- 長期志向:竹中は非上場ゆえ“作品主義”で技術研鑽
まとめ②|技術で選ぶ
軸 ベストマッチ企業 伸びるテーマ 海外×再エネ 鹿島 / 大林 洋上風力・水インフラ DX×都市開発 大成 BIM/デジタルツイン GX材料開発 大林 / 清水 Clean-Crete®, SUSMICS-C ロボ×木造高層 竹中 T-iROBO®, PRISM
次のアクション
- 志望企業が決まったら 決算PDFで数字を裏取り
- 面接用に 業界キーワードを学習
- 迷ったら本記事の「キャリア診断表」を再チェックして軸を再確認
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