日本のマンションは今、大きな転換点にあります。
国土交通省によると、日本のマンションストックは約700万戸。
そのうち築40年以上のマンションは約137万戸に達しています。
さらに問題は、これが急増することです。
・10年後 約274万戸
・20年後 約464万戸
つまり、日本のマンションは今後一気に老朽化期に入ります。
そしてもう一つの問題が、区分所有者の高齢化です。
築40年以上マンションでは、
世帯主70歳以上が5割を超えるケースも珍しくありません。
国交省はこれを
「マンションの二つの老い」
と呼んでいます。
つまり
・建物が古くなる
・住民も高齢化する
という二重の問題です。
こうした背景から、2025年にマンション関係法が改正され、
2026年からマンション再生制度の大きな見直しが始まります。
今回の改正のポイントは一言でいうと
マンション再生が「建替え中心」から「複数の選択肢を比較する時代」へ変わることです。
この記事では、
・今回の制度改正のポイント
・更新・売却・除却など新しい再生手法
・マンション市場への影響
・建築技術者の需要の変化
について整理します。

■ 今回の法改正のポイント。
マンション再生は、「建替え中心」から「再生メニュー比較」の時代へ。
今回の法改正では、区分所有法とマンション建替円滑化法が見直されました。
これまで曖昧だった再生手法について、
決議制度
事業制度
の両方が整備されています。
ポイントは二つあります。
一つ目は、新しい決議制度の創設です。
今回の改正では
建物更新決議
建物敷地売却決議
取壊し決議
などの決議制度が整理されました。
原則として多くの再生決議は
区分所有者数および議決権の4/5以上
が必要です。
ただし、耐震性不足などの客観的事由がある場合は
3/4以上
へ緩和されます。
二つ目は、再生事業制度の整備です。
決議が可決された後、
組合設立
権利変換
補償金計画
明渡し
工事
といった事業手続を進めるための制度が整備されます。
つまり今回の改正は、単に決議要件を変えたものではありません。
マンション再生を実際に動かす制度の骨格を整えた改正と言えます。
実務的に見ると、この改正のいちばん大きな意味は、出口が増えたことそのものより、初期検討の質が問われるようになることです。
今までは「修繕か建替えか」で考えていた案件でも、
今後は「更新で性能向上できるか」、「一括売却の方が合理的ではないか」、「まず除却で危険を止めるべきではないか」という比較が必要になります。
制度が複線化したぶんだけ、最初の見立てがますます重要になる。
だからこそ、これからの実務では、法制度、構造・設備の技術、資金、権利調整、合意形成を一体で見られる人材の価値が上がるはずです。

まとめ
- 改正の対象は、区分所有法だけでなく再生法や金融支援制度にも及ぶ。
- 法律名の変更は、「建替え中心」から「再生全体」への重心移動を示す。
- 今回の改正は、決議ルールと事業手続をセットで整えている。
- 実務では、再生メニュー比較の初期判断力がより重要になる。
■ 更新(一棟リノベーション)。
建替えでも修繕でもない、「第三の再生」が制度に乗り始める。
更新、いわゆる一棟リノベーションは、今回の改正のなかでも特に注目されている再生手法です。
考え方としてはシンプルです。
既存の躯体を活かしながら建物全体の性能を引き上げる方法です。
耐震補強。
給排水設備更新。
断熱改修。
バリアフリー化。
場合によっては専有部分まで含めた全面改修を行います。
つまり、建物を壊さずに価値を作り直す再生です。
実務的には合理的ですが、日本ではこれまで広がりにくい面がありました。
理由は制度の位置づけが曖昧だったことです。
従来の区分所有法では、一棟リノベーションは建替えに該当しません。
そのため共用部分変更など既存制度で処理するしかありませんでした。
しかし実際には
専有部分への影響
大きな費用負担
仮住まい問題
などが発生します。
建替えに近い重い再生であるにもかかわらず、制度が整っていなかったのです。
今回の改正では、この点が整理されます。
新たに 建物更新決議 が創設されます。
決議要件は
区分所有者数
議決権
の 各4/5以上 です。
耐震不足など客観的事由がある場合は
3/4以上
へ緩和されます。
さらに更新に対応する マンション再生事業制度 も整備されます。
これにより更新は、正式なマンション再生手法として扱われることになります。
建築実務的において、求められるのは「改修設計」だけではありません。
構造診断、設備更新計画、工程計画、居ながら工事の可能性評価、長寿命化の見立て、
そして住民に対して“なぜ建替えでなく更新なのか”を説明する力です。
つまり更新は、単なる工事手法ではなく、建築技術者の役割を広げる再生手法でもあります。

まとめ
- 更新は、躯体を活かしながら建物全体の性能を引き上げる再生手法。
- 従来は建替えに当たらず、制度の位置づけが曖昧で進めにくかった。
- 今回の改正で、更新は正式な再生メニューとして扱われる見込み。
- 今後は、構造・設備・工程・合意形成を横断して説明できる技術者の価値が高まる。
■ 建物・敷地の一括売却。
「住民が再生を主導できないマンション」に出口をつくる。
一括売却は、マンション再生のなかでも重要な選択肢です。
なぜなら、すべてのマンションが住民主導で再生できるわけではないからです。
実務では
管理不全
住民高齢化
資金不足
合意形成困難
といったマンションも多くあります。
こうした場合、住民自身が再生事業を進めるのは難しくなります。
そこで現実的な選択肢となるのが、マンション全体をまとめて売却する方法です。
外部事業者が再生を担う形になります。
ただし従来制度では、この売却型再生の制度骨格が弱いという問題がありました。
区分所有マンションでは
専有部分所有権
敷地利用権
が複雑に絡みます。
そのため全体売却には強い意思決定制度が必要になります。
今回の改正では
建物敷地売却決議
敷地売却決議
などの制度が整理されました。
決議要件は
区分所有者数
議決権数
敷地持分価格
の 各4/5以上 です。
さらに売却に対応する マンション等売却事業制度 が整備されます。
これにより一括売却は、制度として選択できる再生手法になります。

まとめ
- 一括売却は、再生の担い手を住民側から外部事業者へ移す手法。
- 現行では、全体売却の意思決定や分配の制度骨格が弱かった。
- 今回の改正で、売却型再生に対応した事業手続が整備される。
- 今後は、「自前で建替える」以外の出口として現実味が増す。
■ 取壊し・除却。
「再建しない再生」が、ようやく制度の表に出てくる。
マンション再生というと、建替えを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし実務では、すべてのマンションが再建できるわけではありません。
例えば
定期借地権マンション
再建採算が取れない立地
危険な老朽建物
こうしたケースでは、まず建物をなくすこと自体が合理的な場合があります。
しかし従来制度は建替え中心でした。
そのため、取壊しだけを目的とした制度は十分ではありませんでした。
今回の改正では
取壊し決議
が新設されます。
決議要件は
区分所有者数
議決権
の 各4/5以上 です。
耐震性不足などの客観的事由がある場合は
3/4以上
に緩和されます。
さらに除却に対応する マンション除却事業制度 も整備されます。
これにより、再建を前提としない再生も制度として扱われることになります。

まとめ
- 取壊し・除却は、再建を前提としない再生手法として重要。
- 現行制度では、建替え中心で「壊すだけ」の制度的な居場所が弱かった。
- 今回の改正で、除却事業の規定整備が進む見込み。
- 解体、安全、既存建物リスク評価に強い技術者の需要も高まりやすい。
■ この改正で、マンション価格は下がるのか。
下がるというより、「差が広がる」と見るほうが近い。
今回の法改正によって、マンション価格が下がるのかという議論もあります。
結論から言えば、価格全体が下がる可能性は高くありません。
現在のマンション価格は
供給不足
建築費上昇
都市集中
などの影響が大きいからです。
ただし、マンション間の格差は広がる可能性があります。
再生可能性が高いマンション。
管理状態が良いマンション。
立地が良いマンション。
こうした物件は価値が維持されやすいでしょう。
一方で
管理不全
再生採算が取れない
合意形成が困難
といったマンションは、価格が弱くなる可能性があります。
つまり今後は
マンション市場の二極化
が進む可能性があります。

まとめ
- この法改正だけで、マンション価格全体が大きく下がる可能性は低い。
- 足元の価格を決めている主因は、供給不足、建築費上昇、立地需要。
- 影響が出るとすれば、再生可能性による物件間格差の拡大。
- 今後は、「再生の出口を持てるか」が評価要素になっていく。
■ 建築技術者の需要はどう変わるのか。
「新築をつくる人」から、「再生を判断し、説明できる人」へ。
今回の制度改正は、建築技術者の役割にも影響します。
これまでのマンション実務は
新築設計
修繕設計
が中心でした。
しかし今後は
建替え
更新
売却
除却
のどれが合理的かを判断する実務が増えます。
つまり
建物診断
改修設計
事業判断
合意形成支援
といった能力がより重要になります。
建築技術者は単なる設計者ではなく、
マンション再生のコーディネーター
としての役割を求められる可能性があります。

まとめ
- 老朽化ストックの増加で、マンション再生実務の需要は中長期で増えやすい。
- 重要なのは、新築設計だけでなく「再生メニュー比較」ができる人材。
- 診断、改修設計、事業比較、合意形成支援の価値が高まる。
- 施工側でも、解体・改修・居ながら工事に強い人材の需要が伸びやすい。

■ まとめ。
2026年以降のマンション実務は、「建替えするか」ではなく「どう再生するか」へ。
今回のマンション法改正は、日本のマンション再生制度を大きく整理するものです。
ポイントは次の通りです。
マンション再生制度が整理された
建替え以外の再生手法が制度化
更新・売却・除却が正式な再生手法に
多くの決議は原則4/5
マンション市場は二極化する可能性
これからのマンション再生は
建替えか否か
ではなく
どの再生メニューが合理的か
を比較する時代に入ると言えるでしょう。

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