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防水工事の保証期間10年の工学的根拠と歴史的背景を紐解く

建築業界で当たり前のように言われる防水保証10年。

特に疑いもなく、みんな「防水保証は10年だよね」というが建築業界の常識です。

では、その防水保証10年はどんな工学的な根拠に基づくものなのか、調べてみました。

また、その保障は、実際の防水の耐用年数に対して適切なものなのかも考察しました。

日本で求められる防水保障について、知っておいて損のない情報をご提供します。

目次

防水保証10年の法的根拠

日本の防水保障10年の法的な根拠は、

1999年に制定された「品確法」が「新築住宅」に関して「10年」の瑕疵担保責任を負う

と定めていることのみです。(民法改正に伴い、瑕疵担保責任⇒契約不適合責任に変わっています。)

つまり、本来は、非住宅防水工事や改修工事に対する防水保障期間はについては必ずしも10年を求めることができないということです。

しかし、世の中としては、あたかも無条件に10年間の防水保証をしなかればいけない雰囲気にあります。

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防水保障10年の決まり方(歴史的背景)

品確法の防水保障10年についても、1999年に決められたもので、歴史的に古いものではありません。

品確法の防水保障10年も、それまでの慣習に倣って決められています。

では、その慣習はどのような工学的な根拠に基づいているのでしょうか。

実は、結論は、「工学的な根拠は特にない」です。

防水保障10年は歴史的背景・販売戦略から決まってきたという説が有力です。

話は、昭和30年代前半にさかのぼります。

当時は、戦後の復興期にあり、日本では住宅が不足していました。

安くて品質の良い住宅供給が強く望まれ、日本住宅公団が設立したのものその頃です。

日本住宅公団が提供した住宅は、鉄筋コンクリート造、屋根はフラットな公団住宅でした。

低価格での住宅提供のために、公団住宅の屋根に採用されたのが、それまで使われていたアスファルト防水に押えコンする工法ではなく、砂付きルーフィングによる露出防水でした。

当時、前者を「本防水」、後者を「簡易防水」と呼んでいました。

(今でも、おじさんを中心に「本防水」っていう人いるけど、ここからきているのです。)

上記の露出防水は、それまで勾配屋根に限定されて使われてきたので、それをフラットな屋根に使うことに不安がありました。

その不安を抱える住宅公団に対して、防止に保証を付ける形で当時の工事会社から提案がありました。

その保障期間が10年であったのです。

ここに、特に工学的な根拠があったわけではないですが、当時の防水関係者が総合的に考えて、10年間くらいは大丈夫だと判断したのでしょう。

それが、この令和まで、建物の状況など個別要因を考慮せず、脈々と続いているのです。

防水の実力と保障期間との比較

防水層の耐用年数は、防水材の種別、各社製品の銘柄、防水層の構成、屋根の劣化環境などによって異なるため、一律に定めることはできません。

現在、最も広く認知されている数値は、1980年度から5年間にわたって行われた建設省総合技術開発プロジェクト「建築物の耐久性向上技術の開発(通称、耐久性総プロ)」において検討されたものです。

その際に、下式により「推定耐用年数」を算出する方法が提案されています。

Y=Ys×s×a×b×c×D×M

Ys:標準耐用年数

s:防水工法の選択係数

a:設計係数

b:施工係数

c:施工時の気象係数

D:劣化外力係数(断熱係数×地域係数)

M:維持保全係数

上記の式は覚えなくて良いと思いますが、

推定される防水層の実力は標準耐用年数に様々な要因係数を鑑みて決定されることがわかります。

しかし、世の中では、下表の標準耐用年数が独り歩きしているのが実情です。

その後、2009年から2年間「建築物の長期間に対応した材料・部材の品質確保・維持保全手法の開発」において、当時、対象外であった防水材を含めて、見直しが行われました。

現在は、ISO15686シリーズとの整合を図るため、「標準耐用年数」を「リファレンスサービスライフ」と呼んでいます。

下表が見直し後のリファレンスサービスライフです。

この結果を見ると、一般的には防水保障期間の10年というのは、無理のある数字とはならない印象です。

しかし、上記はあくまで「標準的」な状況を想定した数値であることを、理解したうえで使うべき数字でしょう。

シーリング材の耐用年数について

防水層の実力は求められる保証期間に対して、あまりに無理のある数字ではないことがわかりました。

一方、実際の漏水の一番の漏水要因は、シール部分でしょう。

その実力はどのようになっているのでしょうか。

まず、シーリング材の耐用年数は、他の防水材と同じように、材料だけで決まるわけではありません。

シーリング材についても、耐久性総プロにおいて、調査が行われ、上記の式と同じく様々な条件係数を加味したうえで、耐用年数が算出されることになっています。

つまり、シーリング材の耐用年数も様々な条件で変化するものと理解しましょう。

調査の中では、補修工事が求められる経過時間についてアンケート調査が行われており、その結果が下図です。

(建築物の耐久性向上技術シリーズ建築物仕上げ編Ⅱより)

1年以内の補修のピークは初期故障の期間と考えられ、10年前後のピークが摩耗故障による寿命と判断されます。

品確法はやはり防水に10年の保証期間を求めており、シーリング材も同じ状況にあります。

上記の通り、シーリング材の実力値は10年程度が妥当であると考えると、10年の保証を毎度求めるのは厳しいように思います。

実際に、そのように考えているようで、日本シーリング材工業会は、シーリング防水保証するで基本条件を提示しています。(「品確法」に対するシーリング防水の保証と補償範囲の考え方」

業界的には、品確法があるので仕方なく保証といった感じですが、品確法は新築住宅が対象です。

その他の建物にも、当然のように保証を求めてくるお客さんもいますが、正しい知識をつけて、

「できること」「できないこと」「リスクの度合い」をしっかり説明できるようになりたいですね。

まとめ

  • 法的根拠: 防水保証10年の法的な根拠は、1999年に制定された品確法によるもので、これは新築住宅の瑕疵担保責任期間として設定されています。ただし、非住宅防水工事や改修工事には適用されません。
  • 歴史的背景: この10年という期間は、過去の慣習や販売戦略に基づいており、工学的な根拠は存在しない。
  • 防水材の耐用年数: 防水材の耐用年数は、材料の種類、品質、施工技術、気象条件などによって異なります。1980年代に建設省のプロジェクトで「推定耐用年数」の算出方法が提案されました。
  • シーリング材の耐用年数: シーリング材の耐用年数も同様に様々な条件に依存し、保証期間として一律に10年を適用するのは適切ではない。
  • 誤解の可能性: 一般に広まっている耐用年数の概念はしばしば誤解を招くことがあるため、正確な情報提供が求められる。
  • 適切な期間設定の重要性: 建築物の維持管理や補修の必要性については、具体的なデータに基づく適切な期間設定が重要です。
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