
アンカーボルトのねじ山の出が少なくて、ダブルナットできない!!
品質保証できるのか!ぶっ壊してやり直せ!!
みたいな、議論は建設現場では結構あるあるです。
また、設備機器・配管などの固定においても、緩み止めの為にダブルナットを求められる場合があります。
ただ、ペンギンは建設業ではダブルナットは最低限の範囲で良いと思っています。
何故なら、建設業では正しいダブルナットの方法で締め付けていないことが多く、あまり意味がないから。
この記事を読めば正しいダブルナットの締め方と、
建設現場で本当に必要な個所の判断基準が自分の中で出来るはず。
どんなところにダブルナットが必要か
最初に結論ですが、
ペンギンは建設業でダブルナットが本当に必要な場所は、
鉄骨造建物の露出柱脚アンカーボルトのみだと考えています。
その他に、ダブルナット(緩み止め)しておいた方がいいと考えられる場所は、
避雷針やアンテナ等の設置接合部
屋外に設置するキュービクル等の大型の設備機器
太陽光パネルの止付け部
マンションのバルコニーや階段の手すり
等です。
その理由をお伝えします。


なぜネジは緩むのか
ダブルナットとは緩み止めの為にするわけですが、
その必要性を考えるために、そもそも何故ネジが緩むのかを考えます。
ねじが緩むのは、
締付けによってボルトに発生した初期締付け力(ボルト軸力)が様々な原因によって低下するためです。
ねじが緩む要因には2種類あり、
1つは、非回転緩み。もう1つは回転緩みです。
非回転緩みは、長期間ボルトに張力が作用することによる伸びや、熱膨張など、経年や環境によるものが要因です。
回転緩みは、ボルトにかかる繰り返しの外力が要因です。
(繰り返し外力について、建築物でいうと、風荷重や、設備の振動などがイメージしやすいと思います。)
こまかな分類や、細かな内容はこちらのリンクが大変参考になるのでご参照ください。
(このリンク先はすごい!!ネジへの情熱が伝わってくる。)
ダブルナットの有効性
さて、上記の要因で生じるネジの緩みに対して、ダブルナットの有効性を考えます。
ダブルナットが有効なのは、
回転緩みに対してであり、残念ながら非回転緩みに対してはあまり意味がありません。
非回転緩みの場合、環境によるものも多く、建築物の場合はどうすることもできないというのが実態でしょう。
しかし、繰り返し風を受ける面の部材や、常に振動を生じているいる設備を止めるボルトに生じる可能性がある
回転緩みに対しては、ダブルナットは有効であると言えるでしょう。
建設業では殆どおこなれていないダブルナットの正しい締め方
回転緩みに対しては有効であるダブルナットですが、
ペンギンが知る限り、
建設業の現場において、正しくダブルナットを締め付けているケースは稀です。
(普通ボルトの場合は、営繕の監理指針にも書かれているのですが。。。)
そして、正しい締め付け方をしていない場合、残念ながらダブルナットの効果は非常に小さくなってしまいます。
では、ダブルナットの正しい締め付け方とはどのようなものでしょうか。
正しい締め付け方は図に示すように、上ナットを締めた後に、下ナットを緩めて、羽交い締めにすることです。


物理的・工学的に正しいダブルナットの方法はこのように羽交い締めにすることです。
どうして建設業では正しいダブルナットしていないのか?
正しいダブルナットの方法はわかりましたが、では何故建設業では正しい方法で行われていないのか?
それは、
「建築構造用アンカーボルトに用いた露出柱脚設計施工指針・同解説」に
鉄骨建物の柱脚アンカーボルトの締め付け方について、下のように示されているからです。
- 下ナットの1次締付け(トルクレンチにより目標トルクを締める)
- マーキング
- 下ナットの本締め(10~30°回転させる。径によって小さくできる)
- 上ナットの締付け(※締付けトルクの規定なし)
- 締付け作業の結果を確認し所定の用紙に記載し、工事監理者の承認を得る。
これは、大臣認定を取得している既製品露出柱脚でも同様です。
つまり、基準書に記載されている方法が、物理的・工学的に正しい方法でないということです。
他の部位のダブルナットについても、柱脚のアンカーボルト締付のこの方法を準用することが多かったり、
そもそも、正しいダブルナットの方法が理解されていないというのが、
建設業では正しいダブルナットの方法になっていない理由だと考えられます。
鉄骨造建物の柱脚アンカーボルトのダブルナットについて
鉄骨造建物の柱脚アンカーボルトについては基準書に書いてある方法が、
物理的・工学的に正しいダブルナットの方法ではないと述べました。
「じゃあ、そんなダブルナットしなくていいじゃなか」となってしまいますが、
ここで注意をしたいのが、露出柱脚のアンカーボルトのダブルナットは建築基準法で規定されているということです。
鉄骨造の柱脚に係る仕様規定の概要[平成12年建設省告示第1456号](抜粋)


つまり、法律的にダブルナットやそれと同等以上の効力を有する戻り止めが必要であり、
それを実施していない場合は法律違反の建物になってしまうわけです。
これが、ペンギンが建設業で本当にダブルナットが必要な場所として、
鉄骨造建物の柱脚を挙げている理由です。(露出柱脚に限る)
なお、法律では、ダブルナット等の戻り止めを施すことは規定していますが、
具体的なダブルナットのやり方や、戻り止めの方法の指定はありません。
基準書が間違っているということ?
法律的に求められる戻り止めに対して、
基準書では物理的・工学的には正しくない方法を推奨していることになります。
では、基準書が間違っているということなのでしょうか?
実はそうとも言い切れません。
確かに、物理的・工学的に正しいダブルナットは羽交い締めにすべきですが、
現実的に羽交い締めすることが可能かという課題があります。
実は、羽交い締めするために、下ナットを逆回転するためには、相当な力が必要です。
現実的に人力で下ナットを逆回転することが可能なのは、M12程度だと言われています。
(M12とは、ボルトの軸径が12mmのボルトのこと。手摺とか設備架台くらいまでならこのボルト径で設計出来る)
だとすると、建物の柱脚アンカーボルトに使われるボルト径のナットを逆回転など到底できません。
そういった観点から、基準書では、下ナットの1次締めをしっかりとして、保険としてダブルナットしている。
と考えているのだと推察されます。
また、通常の建物の場合、建物柱脚部分に回転緩みが生じる要因となる外力が働くケースは少なく、
実際には、緩み止め自体がそこまで必要ではないと考えても差し支えないでしょう。
できないことを基準書には書けないので、最低限の配慮を求めているという感じでしょうか。
鉄骨造柱脚のアンカーボルトの出山が少ない時の対処法
現場では色々な事情で鉄骨造柱脚のアンカーボルトの出山が小さくなってしまうことがあります。
その際に、「壊してやり直せ!」の様な理不尽な対応を求められる場合もあります。
これまでのポイントを押させて合理的な対処法を考えて見ましょう。
ただし、今回は下ナットは最低限きちんと締め付けられるくらいの出山は確保できている前提とします。
鉄骨造の露出柱脚は法律的に緩み止めが規定されているので、緩み止めを設ける必要がある。
緩み止めの方法に具体的な指定はなく、ナットの溶接も可とされている。
建物柱脚部に回転緩みの要因となる外力は生じにくい
ペンギンの対処の推奨は、
3種ナット(少し薄いナット)を緩み止めとして使用する
ベースプレートにナットを溶接
ハードロックナットなどの検討
です。
3種ナットを緩み止めに使用することは、実は、工学的な観点からは誤りです。
但し、下ナットに本締めした後に、上ナットを保険的に付けている実態を考えると、
法律的に問題ないと言えれば良く、この対処でも良いかと考えます。
(「建築構造用アンカーボルトに用いた露出柱脚設計施工指針・同解説」にもありとしています。)
(農林水産省は駄目っていってます。)
ベースプレートにナットを溶接することは、ナットやベースプレートへの入熱という観点で
嫌がれる場合がありますが、緩み止めという意味で、少量の溶接に留めるのであれば
この対処法が実際の効果としても有効であると考えます。
ハードロックナットなどの検討については、使用適用の範囲を個別にメーカーに確認する必要があります。
使用可能な場合は、法律的にも実際の効力としても有効な手段であると考えます。
設備関連の接合部やアンカーボルトはダブルナットにすべきか?
建築物に付随する設備関連の機器については、
その設備に作用する外力や設備自体の振動の有無から判断すると良いでしょう。
風荷重により繰り返し外力を受け続けるもの。特に細長いものは風荷重による繰り返し荷重を気にすべきです。
なので、例えば避雷針やアンテナ類などの接合部やアンカーボルトは緩み止めを設けるべきでしょう。
とはいえ、その他の設備類も含めて、正しくダブルナット出来ていない現状を考えると、
設備類に関しては、重要な接合部・アンカーボルトについては、使用後の定期点検項目とするなどが現実的でしょう。
定期点検が行いにくいマンションのバルコニー等にあるものについては、
万が一のことを考えて、ダブルナットにしておくのは良いかも知れません。(気休めですが。)


まとめ
ペンギン推奨のダブルナットなどの緩み止めが必要な個所
鉄骨造建物の露出柱脚アンカーボルト
(法律!絶対必要)
避雷針やアンテナの接合部ボルト
(繰り返し風荷重の影響大。真面目にやっておこう!)
屋外に設置するキュービクル等の大型の設備機器
(正直、意味あるか微妙だけど、大事な設備だし慣例的にやってるからやっておこう。)
太陽光パネルの止付け部
(風で太陽光パネルが飛んだとか、ニュースになるのでやっておこう。)
マンションのバルコニーや階段の手すり
(点検しづらいし、万が一の訴訟なども考えてやっておこう。)




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