中大規模木造の防耐火設計まとめ|耐火・準耐火・混構造を実例で整理

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近年、環境性能や新技術の発展により中大規模の木造建築が増加しています。
従来は原則として4階建て以上の建築物への木材使用は禁じられていましたが、2000年の建築基準法改正で必要な防耐火性能を満たせば木材利用が可能となり、この流れが大規模木造建築の促進を後押ししました。
建物の用途や規模・立地に応じて、求められる耐火性能等級(例えば45分準耐火構造や2時間耐火構造)が定められており、大規模木造では部材寸法や構法によってこれら性能を確保することが設計上の大きな課題となります。

本記事では、中大規模木造建築物における防耐火設計の基本と、その要求性能を満たすための代表的な三つの手法、および混構造の活用や接合部・内装に関する設計上の留意点について解説します。
それぞれの章では、実際の先進事例を取り上げ、どのように防耐火設計上の工夫がなされているかを紹介します。

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目次

1. 要求性能(防耐火上必要となる性能水準)

中大規模木造でまず押さえておくべきは、建築基準法で求められる防火上の要求性能です。
建物が所在する地域区分(防火地域・準防火地域等)や建物の規模(高さ、階数、延べ面積)・用途によって、耐火建築物もしくは準耐火建築物とする必要性や、その耐火時間(例:45分、1時間、2時間など)が規定されています。
例えば準防火地域内では、木造2階建ての事務所で延べ面積500㎡を超える場合は準耐火建築物以上とすることが求められます。
さらに規模が大きくなると耐火建築物(主要構造部が原則2時間耐火以上)とする必要があり、高さが一定を超える高層建築物では主要部材に3時間耐火が要求されるケースもあります。
これらの法律上の性能要件を満たすために、中大規模木造では部材寸法の増大や被覆材の追加、新工法の採用など様々な対策が講じられています。
また、2000年以降の法改正や関連法の施行により、防耐火性能を確保した上で木材利用を拡大するための設計手法が整備されてきました。

事例:Port Plus(横浜市・11階建・純木造耐火ビル)

2022年に竣工したPort Plus(ポートプラス)は、地上11階・高さ44mの純木造耐火建築物です。
主要構造部材(柱・梁・床・壁・屋根)はすべて木造で構成されており、壁や床版・屋根にはCLTパネルを使用、内装の天井や階段、家具にも木材(CLT)が活用されています。
本建物は大林組の研修施設として計画され、大臣認定ルートによる特別設計によって耐火構造2時間の性能を確保しました。
木造ラーメン架構の剛性確保や耐火性能の両立など最先端の技術を統合し、日本初となる高さ40m超級の木造ビルを実現しています。
このように、法規上要求される高度な耐火性能(本事例では2時間耐火)を満たすことで、木造でも中高層建築が可能であることを示した象徴的なプロジェクトと言えます。

  • ポイントまとめ
    • 最初に整理すべきは、地域×用途×規模で決まる要求性能。
    • 耐火/準耐火は「木が燃えるか」ではなく、どれだけ時間を稼ぐかの設計。
    • 高層・大規模ほど、**耐火時間(2時間/3時間)**の要求が厳しくなる。
    • Port Plusは、純木造で2時間耐火を成立させた象徴例。

2. 防耐火設計の三手法(木造で必要性能を満たす方法)

中大規模木造の防耐火設計では、大きく分類して三つの手法が存在します。
一つ目は耐火被覆(メンブレン)工法で、石膏ボードなどの不燃材で木構造部材を覆い、火災時に部材が直接燃焼しないよう保護する方法です。
二つ目は燃えしろ設計で、部材断面を余裕ある寸法に設定し、火災時に表面が炭化しても内部の必要断面が残ることで耐火時間を稼ぐ方法です。
三つ目は耐火木材・先進技術の活用で、耐火試験に合格した耐火集成材や、鋼材等他素材とのハイブリッド部材、あるいは自動消火設備との組み合わせによって耐火性能を確保する方法です。
実際の設計では、これら手法を建物の部位ごとに適材適所で使い分けることで、建物全体として求められる耐火性能を確保します。
また、法改正に伴い各手法に関する告示や大臣認定工法も整備されてきており、設計者は最新の認定情報を把握しておく必要があります。

事例:小鹿野町役場庁舎(埼玉県・2階建・燃えしろ設計による45分準耐火建築物)

埼玉県の小鹿野町役場庁舎(新庁舎)は、地上2階建ての純木造庁舎です。
本計画では防火地域の指定がない立地条件ながら、町の防災拠点となる公共建築物として準耐火建築物(準耐火時間45分相当)として計画されました。
耐火性能を満たす手法として燃えしろ設計
を全面的に採用している点が大きな特徴で、主要構造部材には地域産杉の大断面材を用い、その表面を耐火ボードで覆うことなく現しとしています。
火災時には表面が炭化して燃えしろ層となることで内部の構造断面を守り、所定の耐火時間を確保する設計です。
この手法により木材の質感を活かした空間を実現するとともに、耐火被覆材が不要になる分コスト削減や施工の簡素化にも寄与しています。
なお、本庁舎では構造材の燃えしろ計算にJAS製材の使用が条件となるなど、材の品質条件を満たすことが前提になります。
このように認定基準を満たす品質の木材を用いることで、耐火ボードに頼らず木を現しにできる点が燃えしろ設計の利点であり、地域産木材の活用促進にも繋がっています。

  • ポイントまとめ
    • 三手法は、被覆(メンブレン)/燃えしろ/耐火木材・先進技術
    • 被覆は、隙間・欠損・貫通部の管理が性能を左右する。
    • 燃えしろは、**部材断面の余裕+欠損(孔・欠き込み)**の扱いが鍵。
    • 小鹿野町役場は、45分準耐火×燃えしろ設計×木現しの好例。

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3. 混構造(他構造材との組み合わせによる木造)

大規模木造では、木材だけで全てを賄わず**他の構造材料と組み合わせた「混構造」**を採用することで、防耐火上や構造上の課題をクリアする手法も一般的です。
例えば、下部階やエレベーター・階段室を鉄筋コンクリート造とし上部を木造とする、あるいは木造架構に鉄骨ブレースや鉄骨梁を組み合わせるなど、木造+RC造+S造のハイブリッド構造によってそれぞれの材料の長所を活かします。
基礎や地下階を耐火性・剛性の高いRC造とすれば上部木造を支える安定した土台となり、またコア部分をRC造耐火区画とすることで木造部分の延べ面積制限の緩和や避難計画の単純化が可能です。
鉄骨部材との組み合わせでは、長スパンや大開口部に対応しつつ接合部の強度・剛性を高められる利点があります。
一方で混構造では異種材料接合部のディテール検討や、木と他材の熱膨張差による応力への配慮も必要です。
防耐火設計上は、木造部分が法的に準耐火建築物等となる場合、木と他材の接合部で耐火上弱点とならないよう適切な納まりとすることが重要です。

事例:牛久市立ひたち野うしく中学校(茨城県・大規模木造校舎+混構造)

茨城県に新設された牛久市立ひたち野うしく中学校は、延べ床面積が大きい大規模校舎です。
敷地が広いため校舎棟は基本的に平屋ですが、一部に2階建て部分も有し、構造形式は木造軸組工法を主体に一部RC造および鉄骨造を併用した混構造となっています。
本計画では「できる限りオール木造で」という方針のもと、コスト増を抑えるため特定メーカーの耐火木材に頼らず、流通材や汎用金物を活用した点が特徴です。
耐火設計上は、延べ面積が大きい木造建築では所定面積ごとに防火区画が必要になります。
本校舎では、耐火木造の棟を挿入する設計を取り入れることで、全体を一体的に繋いだ大規模木造校舎を実現しました。
具体的には、各棟の接続部分に石膏ボードで覆った**「メンブレン型耐火構造」**を採用し、木造同士の接合部を準耐火構造として処理しています。
これにより各棟を構造的・意匠的に連続させつつ、防火上は適切に区画された安全な空間を実現しました。
本事例は、特別な耐火集成材を使わずとも、大規模木造が標準的な工法で可能になるモデルケースとして参照価値が高いです。

  • ポイントまとめ
    • 混構造は、耐火・避難・構造の難所を他材料で受け持たせる戦略。
    • 下部RC/コアRCは、区画・避難計画の整理に効く。
    • 異種材料の接合は、耐火上の弱点を作らないディテールが必須。
    • 牛久の事例は、**区画(接続部のメンブレン耐火)**で大規模木造を成立させた好例。

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4. 接合部・内装制限への配慮(ディテール設計上の注意点)

中大規模木造の防耐火設計では、接合部内装制限にも特別な配慮が必要です。
接合部については、柱と梁をつなぐ仕口や金物部が火災時の弱点とならないよう工夫します。
一般に木造接合部の金物は火熱にさらされると耐力低下しやすいため、木材で覆って保護する、耐火被覆材で覆う、あるいは耐火試験に合格した専用金物を用いる等の対策が取られます。
例えば、混構造の接合部では仕口を木造部分の中に引き込み石膏ボードで巻く、木造架構部分では鋼材を木でサンドイッチして露出させない、といったディテールが考案されています。
また、高度な例では接合部一体型の耐火仕口ユニットが開発・採用されており、木造高層の実現に寄与しています。

一方、内装制限とは、多数の人が利用する大規模建築物において室内の仕上げ材に求められる防火基準です。
一定規模以上の学校や劇場、病院、飲食店等では、天井および壁の仕上げに準不燃材料以上を使用することが義務づけられており、木材をそのまま内装に現しで使う場合には難燃処理を施すか、不燃材で覆う必要があります。
しかし近年の運用では、**自動式の消火設備(スプリンクラー設備等)**の設置を前提に、内装制限の扱いを調整しながら木質空間を成立させる設計も一般化しつつあります。
加えて、天井高を確保する、主要避難経路以外の部分で木を使う、といった工夫により木材利用範囲を拡大することも行われています。
要は、設備と計画をセットで組むことで、防火と木質空間の両立が可能になってきているのです。

事例:Port Plusにおける接合部ディテールと内装計画

Port Plusでは、高層木造ラーメン架構の実現に向けて接合部と内装面で様々な工夫が凝らされています。
柱・梁の主要接合部には剛接合仕口ユニットが採用され、接合部内部に鋼材プレート等を組み込んだ構造とすることで、必要な耐火性能と構造性能の両立を狙っています。
また、木質の見え方を担保しつつ耐火上の弱点を作らないために、部材表層の扱い方や、露出のさせ方にも設計意図が入っています。
さらに、館内の木質内装を成立させるための設備計画も重要です。
スプリンクラー等の自動消火設備を含め、火災初期の安全側を押さえることで、木の魅力を内装に落とし込む余地が広がります。
Port Plusは、最新の接合ディテール技術と法令運用の枠組みを組み合わせることで、防耐火性能と木材利用を高い次元で両立させた象徴的事例と言えます。

  • ポイントまとめ
    • 接合部は、金物の熱損傷が致命傷になりやすい。
    • 対策は、埋設・被覆・露出させないディテールを徹底すること。
    • 内装制限は、木質化の最大ハードルになりやすい。
    • スプリンクラー等の設備計画とセットで木質内装の余地が広がる。
    • Port Plusは、接合部技術+設備+設計ルートで木質空間を成立させた好例。

<参考資料>
中大規模木造建築物の構造設計について網羅的に解説した実務書です。

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中大規模木造建築物の構造設計の手引き 改訂第2版
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