設計者から発注者へ転職するには?デベロッパー勤務10年の実体験で解説

設計事務所やゼネコン、施工管理の仕事を続けていると、
ふとこんなことを考える人は少なくないと思います。

この働き方を、10年後も続けられるだろうか。

建築の仕事は面白いです。
自分の関わったものが形になり、街に残る。
やりがいは確かにあります。

その一方で、納期に追われ、夜遅くまで働き、休日もどこか落ち着かない。
若い頃はそれでも走れますが、結婚や子育て、親のこと、自分の体力のことまで考え始めると、働き方を見直したくなるタイミングが来ます。

そこで選択肢として浮かぶのが、発注者側への転職です。

私自身、構造設計者として10年以上働いた後、不動産ディベロッパーへ転職しました。
転職後は、働き方が大きく変わり、家族と過ごせる時間が増えました。
収入面でも改善があり、視野も「図面をつくる側」から「事業全体を見る側」へ広がりました。

ただし、発注者側は決して“楽園”ではありません。
設計や施工とは違う難しさがあり、向き不向きもはっきりあります。

この記事では、
設計者・施工者から発注者側へ転職したい人に向けて、

  • 発注者側とはどんな仕事か
  • 転職して感じたメリットとデメリット
  • 向いている人・向いていない人
  • 面接で見られるポイント
  • 転職前に準備しておくべきこと

を、実体験ベースで整理していきます。

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目次

発注者側とはどんな仕事か

まず最初に整理したいのが、「発注者側」とは何を指すのかです。

建築業界では、発注者側という言葉がかなり広く使われます。
一般的には、次のような立場が近いです。

  • 不動産ディベロッパーの建築担当
  • 事業会社の建築・施設担当
  • 鉄道、通信、インフラ会社の建築担当
  • REIT・AM・PMなど不動産運用側の技術担当
  • 自社保有不動産の企画・修繕・建替えを担う部門

つまり、自分で図面を描くことや施工を行うことが主業務ではなく、外部の設計者や施工者をマネジメントしながら、自社の事業判断として建築を動かす立場です。

発注者の仕事は、設計者や施工者が検討した結果の中から選ぶことが多く、設計そのものより、判断と調整の比重が高い仕事になります。

この違いを理解せずに転職すると、入社後にかなりギャップが出ます。
逆にここを理解したうえで、許容できるのであれば、発注者転職はかなり現実的な選択肢になります。

設計者・施工者が発注者側へ転職したいと感じる理由

発注者転職を考える理由は、細かくは人によって少しずつ違いますが、実際にはかなり共通している部分も多いです。

一つ目は、労働時間の問題です。

設計も施工も、年次が上がるほどに、責任範囲が広がり負荷が上がります。
設計変更、VE、見積調整、工程調整、社内レビュー、現場対応。
建築技術者として成長するには濃い経験ですが、そのぶん私生活は圧迫されやすくなります。

二つ目は、年収や待遇の頭打ち感です。

特に若いうちは、「とにかく経験を積む」ことが優先になりがちです。
ただ、30代に入ると、仕事内容だけでなく、収入、勤務地、転勤、福利厚生まで含めて現実的に考えることが必要になってきます。
大きなゼネコンであれば、処遇も良くなる可能性はありますが、設計事務所ではどうしても限界があるでしょう。

三つ目は、もっと上流や全体を見たいという気持ちです。

図面や現場の議論を重ねる中で、
「そもそもこの事業はどんな狙いなのか」
「運用まで見据えると、この設計は本当に合理的か」
と思うことは多いはずです。
発注者側の魅力として、企画から完成、その後の運用や売却まで建築のライフサイクル全体に関与できる点が挙げられます。

発注者側へ転職するメリット

労働時間を見直しやすい

発注者側へ転職して最初に実感しやすいのは、やはり働き方の違いです。

もちろん会社差はあります。
ただ、一般に発注者側は、設計や施工のように自分自身が答えのない検討を延々と回し続ける立場ではありません。

外部の設計事務所やゼネコン、コンサル、協力会社が持ってきた案や条件を踏まえ、
自社としてどの案を採るか、どう進めるかを判断する立場です。
発注者側はトライ&エラーを自ら行うのではなく、会社の資本で外部専門家の検討結果から選ぶ形になるため、労働時間を削減しやすい構造になっています。

そのため、少なくとも
「毎日深夜まで図面を追う」
「休日もずっと宿題が残る」

という状態からは離れやすくなります。

家族との時間を取り戻したい人にとって、これはかなり大きい変化です。

年収・福利厚生が改善することがある

発注者側、とくにディベロッパーや大手事業会社は、建築専業の会社とは収益構造が違います。
利益の源泉が設計料や工事利益そのものではなく、事業全体の収益であることも多いため、給与水準や福利厚生が相対的に良いケースがあります。

発注者側は大企業であることが多く、給与や福利厚生が充実していることが多いです。
さらに、ディベロッパーでは30代後半で年収1000万円級も問題ないレンジに納まります。

もちろん、ここは会社差が非常に大きいです。
ただ、少なくとも転職市場では、建築・不動産領域の発注者側ポジションで高年収帯の求人は現実に存在します。
建築・不動産系の転職市場でも、ディベロッパー技術職や建築担当の募集が継続的に出ており、年収帯が高めに設定される求人も見られます。

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事業全体を見る力がつく

発注者側の一番面白いところは、
「建築単体」ではなく「事業としての建築」を見る視点が身につくことです。

設計や施工では、どうしても自分の担当領域に深く入ることになります。
それは専門家として非常に大切です。

ただ、発注者側では、

  • この投資は成立するか
  • 運営段階で無理がないか
  • テナントや利用者にどう効くか
  • 売却時に価値を維持できるか
  • CAPEXや修繕まで見て合理的か

といった視点で建築を見るようになります。

この視点は、将来的に
デベロッパー、AM、PM、施設戦略、事業企画などへキャリアを広げるうえでも強い武器になります。

発注者側へ転職するデメリット

社内調整がとにかく多い

発注者側に来て、最初に面食らう人が多いのがここです。

設計や施工では、図面、現場、法規、納まり、工程など、比較的“ものづくり”の論点が中心です。
一方、発注者側では、社内説明が非常に多くなります。

  • 上司への説明
  • 他部署との調整
  • 稟議資料の作成
  • 投資判断のための整理
  • クレームや保有資産対応の報告

発注者側は多額の投資判断を伴うため、責任が大きくなる為、必ず上席の了承が必要になり、社内向けに働きかける場面が増える構造になっています。

この仕事をある許容できないとかなりしんどいです。
「自分は何も生産していないのでは」と感じる人もいるように思います。

サラリーマン的な立ち回りが必要になる


大企業の発注者側では、どうしても上司の承認、組織の論理、社内の力学が強くなり、いわゆる“サラリーマンムーブ”が求められます。

これは良し悪しというより、構造上そうなりやすいという話です。

設計事務所や現場でのスピード感、現場感覚、人間関係のフラットさに慣れている人ほど、
この空気を窮屈に感じることがあります。

なので、
「自分の正しさをそのまま通したい」
「社内根回しが苦手」
「承認プロセスが遅いと強くイライラする」

という人は、転職後にストレスが溜まりやすいです。

建築の専門性を深掘りする働き方ではなくなる

発注者側に行くと、建築の専門知識はもちろん武器になります。
ただし、その使い方は変わります。

自分で詳細図を詰める。
構造計算を回す。
施工計画を組み立てる。
そういった“自分の手でつくる”感覚は薄れやすいです。

専門性を活かしながら、
判断、比較、説明、調整に変換していく仕事になるので、
ここを前向きに捉えられるかが重要です。

発注者側に向いている人・向いていない人

向いている人

発注者側に向いているのは、次のような人です。

  • 図面そのものより、事業全体に興味がある人
  • 社内外の調整をそこまで苦にしない人
  • 相手の説明を聞いて、判断材料を整理するのが得意な人
  • 設計・施工経験を“全体最適”に活かしたい人

つまり、発注者側で強いのは、
「自分が全部やれる人」より、「他人の力を使って全体を前に進められる人」です。

向いていない人

逆に、向いていないのは次のようなタイプです。

  • 自分で設計を深く詰めることが一番好きな人
  • 図面や現場の手触り感がないとやりがいを感じにくい人
  • 根回しや社内説明に強いストレスを感じる人
  • 上司承認や組織都合に納得しにくい人
  • 自分の裁量だけで素早く動きたい人

これは能力の優劣ではなく、単純に相性の問題です。
設計・施工の現場でこそ力を発揮する人もいます。

大事なのは、
「発注者側のほうが上」ではなく、「自分に合う働き方はどちらか」を考えることです。

面接で発注者側が見ているポイント

発注者側に関する理解が深まったところで、続いては、発注者側の採用面接官が何を見ているか、
実際に面接官をしている側からポイントをお伝えします。

面接で発注者の採用側は見ているポイントは結論から言うと
「実力」「自社との適合性」「早期離職の可能性」
の3つです。

この3つを、実際の転職活動でどう意識するかを整理していきます。

1. 実力

発注者側の採用では、設計や施工の専門力そのものより、
その経験を自社でどう使えるかが見られます。

具体的な面接でアピールすべきポイントは、

  • 経験建物の仕様への理解
  • 積算や見積りの経験
  • 工程感覚
  • 他者を動かした経験

などです。

つまり、面接官に響くのは
「私は○○設計をしていました」
ではなく、

「複数の案件でコストと品質のバランスを見ながら設計変更を整理してきました」
「現場との調整経験があり、工程の厳しさを踏まえて判断できます」
といった言い方です。

これに具体的に自分が行った内容を付加して説明できると良いでしょう。

2. 自社との適合性

これは実は面接官が一番気にしています。
何故なら、入社してもらった後に「あれ?思っていたのと違う」と思われてしまうことが、
採用側の企業にとっても、あなたにとっても非常にマイナスだからです。

まず、必ず希望企業の組織体系や応募部署の位置づけを確認しておきましょう。
発注者側は大規模開発だけでなく、保有資産の維持管理やクレーム対応、品質管理のような泥臭い業務も多いからです。

たとえば同じ発注者側でも、

  • 新規開発中心の会社
  • 既存資産運営が中心の会社
  • 品質管理色が強い会社
  • テナント対応や修繕が多い会社

では、求められる人材像が違います。

だからこそ、
「発注者側に行きたいです」だけでは弱いのです。

その会社が今どんな案件に力を入れているか。
どの部門に配属される可能性があるか。
新築だけでなく、保有資産対応も受け入れられるか。
ここまで面接段階で考えている人は、かなり印象が良くなります。

3. 早期離職の可能性

面接官が警戒するのは、内定辞退と早期退職です。
そういった意味で面接官は、前職の退職理由、志望動機、転職活動状況を非常に気にします。

ここで大事なのは、
現職への不満をそのままぶつけないことです。

たとえば、

  • 残業がつらい
  • 給料が低い
  • 評価されない

という本音があっても、それだけで話すと
「うちでも条件が合わなければ辞める人なのでは」
と見られやすくなります。

なので、

  • ライフステージの変化
  • 事業全体に関わる仕事への志向
  • 自分の経験をより活かせるフィールドへの移行

といった形で、
前向きな軸に変換して話すことが大切です。

面接官は、同様な話を何度も聞いていますが、更に深堀する術はないので、矛盾の無い回答を準備しておきましょう。

発注者側の面接で伝えると強いこと

ここはかなり重要です。
面接では、次の3点を意識すると伝わりやすくなります。

品質・コスト・期間のどれに強いかを明確にする

発注者側の事業判断材料は基本的に品質・コスト・期間です。

そのため、面接では自分の経験をこの3つに結びつけるのが有効です。

たとえば、

  • 品質なら、法適合、納まり、性能、クレーム予防
  • コストなら、VE、見積査定、積算感覚
  • 期間なら、工程管理、調整、設計変更時の影響判断

という形です。

他人を動かした経験を話す

発注者側では、自分で全部やるより、
設計者、施工者、社内関係者を巻き込みながら効果を最大化して進める力が重要です。
「自分が働きかけて、他人に何かをやってもらった経験」のエピソードは面接官に響きます。

なので、面接では

  • 関係者が多い案件
  • 調整が難しかった案件
  • トラブルを収めた経験
  • 合意形成に苦労した経験

を具体的に話せると強いです。

志望動機を会社ごとに具体化する

「上流から下流まで携われる」「竣工後の運用まで見たい」というのは発注者側の仕事内容を理解しているテンプレとして成立しますので、困ったら使って問題ない決まり文句です。
しかし、面接官はその話は何度も聞いているため、それだけでは他と差別化出来ず、印象は弱いです。

どの会社にも通じる一般論ではなく、

  • その会社のどの事業に魅力を感じたのか
  • なぜその会社でなければならないのか
  • 自分の経験をそこでどう活かせるのか

まで言えると、面接の通過率はかなり変わります。

必ず、その会社がどのプロジェクトに力を入れていそうか調べてから面接に臨みましょう。


転職前に準備しておくべきこと

まずは職種の違いを理解する

発注者側といっても、実際にはかなり幅があります。
デベロッパー、事業会社、鉄道会社、インフラ会社、AM、PMでは、仕事内容も文化も違います。

なので、
「発注者側へ行きたい」ではなく、「どのタイプの発注者に行きたいか」
まで言語化しておくべきです。

自分の経験を“判断力”として棚卸しする

発注者側で評価されるのは、経験年数そのものではありません。
その経験を通じて、

  • 何を見抜けるようになったか
  • 何を比較判断できるか
  • 何を未然に防げるか
  • 誰とならうまく進められるか

を語れることです。

設計経験も、施工経験も、ここに変換できれば十分武器になります。

転職エージェントは早めに使う

発注者側の求人は、表に出ているものだけではありません。
また、同じ「建築担当」でも、実際の仕事内容は求人票だけでは読み切れないことがあります。

そのため、
建築・不動産領域に強い転職エージェントに早めに相談して、求人の中身を確認するのはかなり有効です。

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