大成建設・鹿島建設のリニア談合事件とは?営業停止の範囲と若手が知っておきたい法規・実務の注意点

「大成建設と鹿島建設が120日間の営業停止」

このニュースを見て、「担当している建築現場も止まるの?」「民間工事なのに、なぜ談合になるの?」と疑問を持った方もいるのではないでしょうか。

今回の発表は、新しい談合事件が発覚したという話ではありません。リニア中央新幹線の駅新設工事を巡る独占禁止法違反事件で有罪が確定し、それを受けて建設業法に基づく営業停止処分が出されたものです。

若手の建築関係者が押さえたいのは、ニュースの経緯だけではありません。競争する会社同士が、受注者や見積価格を事前に調整してはいけないこと。そして、営業停止の影響は処分の対象業種・工事・行為によって異なることです。

この記事では、事件の概要から法的な仕組み、相見積もりや技術協議での注意点まで、実務に結び付けて解説します。

目次

何が起きた?まず営業停止処分を正確に読む

国土交通省の公表によると、関東地方整備局は2026年10月23日、大成建設と鹿島建設に対し、次の営業停止を命じました。[1][2]

確認項目公表内容
対象会社大成建設株式会社、鹿島建設株式会社
処分の根拠建設業法第28条第3項。同条第1項第2号・第3号に該当
停止期間2026年11月7日〜2027年3月6日の120日間
地域全国
対象となる営業土木工事業に関する営業のうち、民間工事に係るもの
土木工事業の意味注文者から土木一式工事を請け負う営業

ここで大切なのは、「両社のすべての営業が停止する」と読まないことです。

今回の命令は、対象を業種と工事の区分で限定しています。建築一式工事や、すべての専門工事まで一律に営業停止になるという内容ではありません。

また、処分における「民間工事」は、単に事業の公共性が高いかどうかで決まるものではありません。国土交通省の公表には、国・地方公共団体や法令で定められた法人を発注者とする工事を除く、という定義が付されています。

「大きな公共的プロジェクトだから公共工事」「外構だからすべて土木一式」と、印象だけで分類しないことが重要です。

担当案件への影響は、発注者の区分、請負契約の対象、建設業の業種、予定する行為をそろえて確認しましょう。

リニア談合事件では、何が問題になったのか

競争見積もりの前に、受注予定者と価格を調整していた

対象となったのは、JR東海が発注する、地下開削工法によるリニア中央新幹線の品川駅・名古屋駅新設工事です。

公正取引委員会は、大林組、清水建設、鹿島建設、大成建設の4社について、工事を受注する予定の会社を決め、その会社が受注できるように協力していたと認定しました。

具体的には、各社の受注希望を確認し、予定された会社より高い見積価格を出したり、競争見積もりへの参加を辞退したりする仕組みです。[3]

問題は、「複数社が同じ仕事について話した」という事実だけではありません。本来は各社が独立して決める受注方針や価格を、競争相手との合意によって調整したことにあります。

架空の相見積もりで考えるとわかりやすい

例えば、建物の改修工事について、発注者がA社・B社・C社から相見積もりを取るとします。

本来は各社が、工事条件、必要な人員、資材費、リスク、利益などを検討し、自社の判断で金額を提出します。

ところが、提出前に「今回はA社が取る。B社とC社はA社より高く出す」と合意していたらどうでしょうか。

見積書は3通そろっていても、発注者が期待した競争は働いていません。

これは仕組みを説明する架空例であり、実際の事件の見積金額や個別のやり取りを再現したものではありません。

2020年の公取委処分と、2026年の営業停止は別の手続き

今回のニュースは、複数の法的手続きが重なっているため、時系列を分けると理解しやすくなります。

時期主な出来事読み取るポイント
2020年12月22日公取委が4社に排除措置命令競争制限行為について是正・再発防止を求める行政上の手続き
2021年3月1日大成建設・鹿島建設について刑事事件の一審判決刑事責任を判断する手続き
2026年9月14日最高裁が各上告を棄却する決定刑事事件の最高裁判断
2026年9月19日両社の刑が確定国交省の処分公表に記載された確定日
2026年10月23日関東地方整備局が営業停止処分建設業法に基づく監督処分
2026年11月7日営業停止期間の開始処分発表日とは異なる

出典:[1]〜[4]。公取委の排除措置命令を争う行政訴訟と、ここでいう刑事裁判は別の手続きです。

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なぜ違法?独占禁止法を建築実務の言葉に置き換える

中心となるのは「不当な取引制限」

談合の法的な中心は、独占禁止法第3条が禁止する「不当な取引制限」です。その定義は同法第2条第6項にあります。[5]

建築実務の言葉でいえば、競争するはずの会社が一緒になって価格や受注先などを調整し、競争が十分に働かない状態をつくることです。

ただし、情報交換があれば何でも直ちにこの違反になるわけではありません。共同の行為や競争への影響など、法律上の要件に沿って判断されます。

実務では、違法かどうかを自分だけで判定しようとする前に、受注予定者の選定や価格調整につながる情報を扱っていないかに気付くことが大切です。

民間の相見積もりにも注意が必要

「談合は公共工事だけの話」と思われがちですが、独占禁止法による競争の保護は、公共工事だけに限られません。

今回も、JR東海の競争見積もりを巡る行為が問題になりました。民間の事務所・物流施設・ホテルの新築や改修でも、競争相手と受注や価格を調整して競争を実質的に制限すれば、問題になり得ます。

なお、公取委の「入札ガイドライン」は公共的な入札を念頭に置いた資料です。本記事では危険な行為を理解する参考に使っていますが、民間案件への適用は個別の取引と法律の要件に沿って検討します。[6]

「もともと施工会社は決まっていた」は、自己判断できない

今回の最高裁決定で重要なのは、施工能力を客観的に検討した点です。

被告人側は、工事が大規模で難しく、事前に技術検討をした特定の会社以外には現実的に施工できないため、そもそも競争が存在しなかったという趣旨の主張をしました。

最高裁は、各社の類似工事の実績や技術・資源、専門業者やJVの活用可能性などを検討し、各社に現実的な施工能力があったと判断しています。情報交換等が競争の前提を失わせたとして、上告を棄却しました。[4:本文5〜7頁]

ここから実務者が学べるのは、「あの会社しかできないはず」「発注者の本命は決まっている」という現場の見立てを、受注調整の理由にしないことです。

事前の技術協力に意義があっても、それだけで他社との価格調整まで認められるわけではありません。

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どんな責任がある?罰金・課徴金・営業停止の違い

「談合したら罰金を払って終わり」ではありません。目的と根拠が異なる制度があります。

制度・責任主な意味主な根拠
排除措置命令違反状態の解消や再発防止などを求める独占禁止法第7条など
課徴金納付命令法律上の算定ルールにより金銭の納付を命じる同法第7条の2など
刑事罰行為者や法人の刑事責任を問う同法第89条・第95条など
営業停止建設業者の営業を一定の範囲・期間で停止する建設業法第28条
損害賠償違反によって生じた損害の賠償を求める独占禁止法第25条・第26条、民法第709条など

これらがすべての事案で同じ形で課されるわけではありません。それぞれ対象と要件があります。[5][6]

会社だけでなく、関与した個人も対象になる

現在の独占禁止法では、不当な取引制限をした行為者に、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金が定められています。情状によって両方を科すこともでき、法人には両罰規定により5億円以下の罰金が定められています。[5:第89条・第92条・第95条]

これは現在の一般的な法定刑の説明であり、今回の事件の量刑を示したものではありません。

「会社のためだった」「上司から頼まれた」という事情だけで、個人の責任が自動的になくなるわけではないと理解しておきましょう。

受注していない会社も、責任を免れるとは限らない

公取委の2020年の発表では、大成建設と鹿島建設は、対象工事を受注していないため課徴金納付命令の対象になっていない一方、違反事業者として排除措置命令の対象になっています。[3]

課徴金がないことと、違反がないことは別です。

自社が受注しなくても、他社が受注できるように価格や辞退を調整する行為に加われば、責任を問われ得ます。「今回は取らない側だから大丈夫」と考えないようにしましょう。

営業停止になると、工事も全部止まる?

新規契約だけでなく、見積もりや交渉も対象になる

国土交通省の公表する取扱いでは、営業停止期間中に行えない行為に、新しい請負契約の締結だけでなく、これに関連する入札・見積もり・交渉などが含まれます。

営業停止期間の終了後に契約する予定でも、期間中の営業行為が認められるとは限りません。[7]

例えば、担当者としては次のように確認します。

契約日は停止期間の後を予定していますが、期間中に見積書を提出し、契約条件を協議することは、今回の処分対象に含まれますか。

契約日だけを後ろに動かして対応したつもりにならないことが大切です。

処分前に契約した工事の施工は、一般に継続できる

一方、処分前に締結された請負契約に基づく工事の施工は、営業停止中でも行える行為として整理されています。

したがって、「営業停止だから、契約済みの現場も一斉に止まる」という理解は正確ではありません。[7]

ただし、既存の現場であっても、新たな工事の追加を伴う契約変更などは別に確認が必要です。単に「同じ現場だから既契約の範囲」と扱わず、当初契約との関係、追加内容、施工上の必要性を整理しましょう。

担当しているプロジェクトでは、施工会社から処分の影響について書面で説明を受け、法務・契約担当と共有すると判断しやすくなります。

若手が注意したい「調整」と「協力」の境界

建設の仕事には、他社との協力が欠かせません。そのため、「他社と話さない」では実務が進みません。

確認したいのは、何のために、誰と、どこまで情報を共有するのかです。

以下は今回の事件の再現ではなく、一般的な業務場面を想定した注意例です。危険な兆候と、個別の違法認定を分けて読んでください。

業務の場面注意したいこと実務での対応
競合会社から「今回、取りに行く?」と聞かれる受注意欲の共有が、受注者の調整につながる個別案件の受注方針を安易に答えず、法務等に相談する
「こちらより高く見積もってほしい」と頼まれる見積価格を調整して他社の受注を助ける行為応じない旨を明確にし、資料を保全して報告する
人員不足で受注を見送りたい自社の判断による辞退と、他社との辞退調整は異なる自社の施工体制を根拠に社内決裁し、発注者に伝える
技術勉強会で見積価格の話になる技術交流の名目でも、個別案件の競争情報は別話題を止め、続く場合は退席して経緯を記録する
共通の協力会社から競合の見積情報が届く第三者を通じても、調整に利用すれば問題になり得る利用・転送を控え、入手経緯と対応を相談する

公取委のガイドラインも、受注予定者の選定につながる受注意欲等の情報交換を問題となる行為として示しています。また、受注者の決定は明示的なものに限らず、暗黙の了解や共通の意思でも足りるとしています。[6]

ただし、単に同じ会合に出席しただけで直ちに談合が成立する、といった意味ではありません。だからこそ、曖昧に同調せず、自社が調整に参加しない意思と、その後の行動を明確にすることが重要です。

JVや技術協議は、それ自体が談合ではない

JVは、複数の建設会社が共同で工事を受注・施工するための仕組みです。技術や施工能力を補い合う協力には実務上の意味があります。[8]

一方、別々に競争する会社・JV同士が「どこが受注するか」「他の参加者はいくらで出すか」を取り決める行為は別の問題です。

共同提案を検討する際は、目的、参加会社、情報共有の範囲、発注条件との関係を事前に整理しましょう。JVを組む予定というだけで、すべての価格情報交換が許されるわけではありません。

発注者・設計者・技術担当者にもできる予防策

ここからは、事件を踏まえた実務上の提案です。

比較する条件をそろえ、各社から独立した回答を受ける

相見積もりでは、図面・仕様・数量・工期・見積除外事項など、比較の前提をそろえます。条件変更があれば、比較対象各社への伝達内容も管理しましょう。

ただし、「条件をそろえること」と「各社の見積価格をそろえること」は違います。

特定の競合会社の未公表見積書を別会社へ渡して価格を合わせさせたり、「他社と相談して金額を整えて」と求めたりする運用は避けます。通常の価格交渉まで一律に違法という意味ではありませんが、競争情報の扱いには契約上の秘密保持や独占禁止法の観点から検討が必要です。

見積書が3通あるだけで、競争があったとは判断しない

金額が似ている、辞退が重なる、内訳や誤記が不自然に一致するなどの事情は、確認のきっかけになります。ただし、それだけで談合と断定はできません。

同じ図面や積算条件を使えば、見積もりが似ることもあります。気になる場合は、次の資料を保全し、調達・法務担当に確認します。

  • 見積依頼書と、各社への送付・変更履歴
  • 各社の見積書、内訳書、提出日時
  • 質疑回答、辞退の連絡、交渉の記録
  • 会社間の調整をうかがわせる具体的な発言や連絡

技術担当者の役割は、疑いだけで取引先を責めることではなく、判断に必要な事実を整理することです。

不自然な依頼には、その場で応じない

例えば、価格調整を持ちかけられたときは、次のように伝えます。

当社の見積価格や受注方針を、他社と調整することはできません。この話題には参加せず、社内の担当部署に確認します。

その後、日時、相手、具体的な発言、自分の対応を記録し、メールやチャットを削除せずに保全します。上司が関与している場合は、その上司だけで完結させず、法務・コンプライアンス窓口や内部通報窓口を使います。

法務へ相談するときは、「談合でしょうか」とだけ聞くより、「誰が、どの案件について、何の情報を、何の目的で求めたか」を示すと判断につながります。

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この事件から覚えておきたいこと

今回の事件は、大手ゼネコンの特殊な営業活動だけの話として片付けられません。

建築実務でも、相見積もり、事前の技術協力、JVの検討、協力会社との情報共有など、競争と協力が隣り合う場面があります。

覚えておきたいのは、次の3点です。

  1. 民間工事でも、競争相手との受注・価格調整は問題になり得る。
  2. 受注しない側でも、調整に加われば責任を負い得る。
  3. 営業停止の影響は、処分書と契約内容を照合して判断する。

迷ったときは、調整に加わる前に立ち止まり、具体的な記録をもって相談する。それが、自分と会社、そして発注者の適正な判断を守る第一歩です。


参考・確認資料

以下はいずれも2026年10月24日に確認した資料です。個別案件では、その後の処分変更や最新の法令・行政資料も確認してください。

  1. 国土交通省:大成建設株式会社に対する営業停止処分の公表 — 処分日、法的根拠、対象営業、期間、刑の確定日。
  2. 国土交通省:鹿島建設株式会社に対する営業停止処分の公表 — 同上。
  3. 公正取引委員会:2020年12月22日付の排除措置命令・課徴金納付命令の発表 — 4社の違反行為、排除措置、課徴金対象の区別。
  4. 最高裁判所第三小法廷:2026年9月14日決定/令和5年(あ)第395号(PDF) — 本文1〜2頁:犯罪事実の要旨、5〜7頁:施工能力と競争の実質的制限に関する判断。PDFの会社名等は匿名表記。
  5. 公正取引委員会:独占禁止法の条文 — 第2条第6項、第3条、第7条、第7条の2、第25〜26条、第89条、第92条、第95条など。e-Gov法令検索も参照。
  6. 公正取引委員会:公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針(抄) — 2026年1月1日改正。措置・責任の区別、受注意欲の情報交換、暗黙の了解等。本指針は公共的な入札を念頭に置く。
  7. 国土交通省:営業停止期間中に行えない行為・行える行為(別表) — 新規契約、入札・見積り・交渉、既契約工事、追加工事の取扱い。建設業法第28条・第31条も参照。
  8. 国土交通省:共同企業体制度(JV) — JV制度の趣旨と種類。

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