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【2025最新版】構造ヘルスモニタリング完全ガイド|“建物の健康診断”で国土強靭化を加速する方法

建物の健康診断” とも呼ばれる構造ヘルスモニタリング(SHM)。
若手エンジニアの皆さんに向けて、最新の動向を 国土強靭化 の政策フレームまで紐づけながら総ざらいします。


目次

そもそも SHM とは?

構造ヘルスモニタリング(SHM)は、建物各所に設置した加速度計やひずみセンサーが日常時・地震時の微細な振動を常時計測し、そのデータをクラウドへ送信、AI が損傷の有無や劣化進行を瞬時に診断する仕組みです。

被災後の安全判定を従来の目視調査より大幅に短縮し、復旧優先順位を即座に可視化できる点が最大のメリットです。

さらに長期的には、温度変化や荷重履歴による固有振動数のわずかな変動を追跡し、疲労やひび割れなど潜在的リスクを早期抽出可能です。

BCP の観点でも、設計段階から導入を提案することで、建築物のライフサイクルを通じたリスクマネジメント品質が飛躍的に向上します。

  • 定義:建物に加速度計やひずみ計を常設し、振動を常時/地震時に計測して損傷を推定する技術。
  • 狙い
    1. 被災直後の「使える/使えない」判断の迅速化
    2. 復旧優先順位の可視化
    3. 長期劣化のトレンド把握(疲労・コンクリートひび割れなど)

システムの理論――センサーから AI 解析まで

フェーズ主な技術若手が押さえたいポイント
① 計測MEMS 加速度計、ひずみゲージ、光ファイバ(DFOS)ノイズ/ドリフト補正 が性能を左右
② 同定モード解析、層間変形角推定、Kalman Filter温度依存で固有周期が数 % 変動する点を補正
③ 診断応力比・残留ひずみ・層間角による三段階判定目標精度は塑性域の 5 % 変位を捕捉
④ 可視化クラウド DashBoard・BIM/デジタルツイン連携API で FM(Facility Mgmt)システムと統合

構造ヘルスモニタリングは、大きく ①計測 ②同定 ③診断 ④可視化 の4工程で成り立ちます。

まず「計測」。建物に貼り付ける MEMS 加速度計 は、スマホの姿勢検知と同じ超小型チップで、揺れを 1/1000 g 単位で拾います。柱や梁に貼る ひずみゲージ は、薄い金属箔がゴムのように伸び縮みし、その抵抗変化で部材の“息づかい”を読むセンサーです。

次に「同定」。得られた信号を モード解析 と呼ばれる方法で分解し、建物特有の“固有振動数(固有周期)”を抽出します。これは楽器のドレミと同じ「固有の音色」で、温度や劣化でわずかに変わるため健康状態の指標になります。そこに カルマンフィルタ という “雑音取り職人” を通すと、外乱やセンサー誤差が滑らかに補正され、微小損傷も見逃しません。

そして「診断」。AI があらかじめ学習した健全モデルと比較し、層間変形角(各階のずれ具合)や応力比を算出、青・黄・赤の三段階で危険度を提示します。

最後の「可視化」では、クラウド上のダッシュボードや BIM モデルがリアルタイムに色替えし、現場に行かなくてもスマホで建物の“今”を把握できます。センサーと解析アルゴリズム、クラウドの三位一体が SHM のエンジンなのです。

理論から見た“限界点”

構造ヘルスモニタリング(SHM)は万能ではありません。

まず 環境変動誤差。気温・湿度で建物は微妙に伸び縮みし、固有振動数が 1〜3 % 変化します。補正せずに解析すると、実際は健全でも「要注意」と誤判定する恐れがあります。

次に センサー密度。センサーは、多くて各階に1つ設置されます。システムによっては、コストを減らすために、中間階のセンサーを間引いて、構造解析により補完しています。このようなシステムなので、当然部分的に壊れる 局所損傷 などの箇所を特定することは難しいです。また、物流施設などの大きな建物や、大きな吹き抜けを有する建物も苦手です。

三つ目は ブラックボックス問題。多くの場合、システムの計算方法などはの判定基準が非公開です。ユーザーは、システムから示される結果だけを確認することになります。そのため、結果の正しい理解や、使い方の事前の準備がされていない場合、システムを正しく使えない場合があります。

さらに 電源・通信障害 も大敵。停電やネット断でセンサーが沈黙すると、肝心の被災直後に役立ちません。PoE+LTE など二重化、バッテリーが積んでいる場合は交換が必要になり、電源接続されている場合は、瞬断対策としてUPSを積んでいるものがあります。そのため、ランニング費用やスペースが必要になります。

最後に、地震後に“傾いたまま”残る 残留変形 は、日本で使われる「応急危険度判定」「被災度区分判定」にも用いられる倒壊リスクや解体判断に直結する重要指標です。しかし、SHM での推定は理論上ハードルが高いとされています。加速度を2回積分して変位を出す際、0.001 g 程度のオフセットでも数十秒で cm オーダーの誤差が累積します。そのため高域遮断フィルタを掛けざるを得ず、ゆっくりした恒久変位成分が消えてしまうためです。

その対策として、

  • GNSS やフォトグラメトリ など“ゆっくりした変位”を直接測るデバイスを加速度計と組み合わせるハイブリッド計測が提案されています。
  • AI を用いて「最大変位と残留変位の相関」を学習し、被災直後に確率的に補完する手法も研究段階に入っています。
  1. 環境変動の影響
    • 気温・湿度で固有振動数がシーズナルにシフト → 誤判定リスク
  2. センサー配置とコストのトレードオフ
    • 少数センサーでは中間層の局所損傷を取り漏らす
  3. メンテナンス義務
    • バッテリー交換・較正忘れは“故障センサーのまま被災”という最悪シナリオを招く
  4. アルゴリズムのブラックボックス化
    • AI 判定ロジックが “説明責任” を満たせない場合あり
  5. 残留変形の評価が困難
    • 加速度を積分して変形を算出するため、残留変形を評価できない。

国土強靭化計画での位置づけ

  • 内閣官房の 民間取組事例集 に NTT ファシリティーズの SHM が掲載。公共インフラの“見える化”モデルとして政府がリスト化しています。cas.go.jp
  • 2025 年6月16日、国交省は 「令和7年度 総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」 を発表し、デジタル監視・遠隔判定 の整備を盛り込みました。SHM は都市レジリエンス強化策の一角として参画予定です。mlit.go.jp

国土強靭化計画では、被災度を遠隔判定する SHM が「デジタル監視・遠隔判定」の柱に位置づけられています。

2025年6月の年次計画は、災害後72時間以内の全国安全確認を目標に、公共施設への常設センサー導入と民間事例の横展開を明記しています。また国交省の「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」でも、クラウド集約型 SHM が重点施策に採用されました。

さらに内閣官房の民間取組事例集には、NTTファシリティーズの「揺れモニ」など先導事例が掲載され、補助金や税制優遇の対象とされています。

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主要ゼネコン & インフラ企業の最新製品

企業/サービス特徴判定スピード備考
清水建設
安震モニタリングSP
加速度 4 台+時刻歴応答解析で高精度揺れ収束後 ≈ 2 分5 階以上 S 造を主対象 shimz.co.jp
NTT ファシリティーズ
揺れモニ®
全階 MEMS+クラウド三段階判定リアルタイム更新技術者によるサポートサービス
大成建設
T-iAlert® Structure/測震ナビ®
IoT + AI、複数棟一元管理即時直後対応フェーズを重視 taisei.co.jptaisei.co.jp
大林組
建物地震被災度即時推定システム
建防協技術評価“第1号”取得数分日立協創棟で初適用 obayashi.co.jp
鹿島建設
q-NAVIGATOR®
判定 1–3 分、二次部材被害も推定クラウド可視化中高層 RC / S に普及型展開 kajima-tatemono.comkajima.co.jp

大手ゼネコンは SHM を自社ブランドで展開し、選択肢を比較しやすい状況が整ってきました。

清水建設の「安震モニタリング SP」は、4台の MEMS(微小電気機械システム)加速度計で揺れを捉え、地震のたび建物モデルを自動学習し判定精度を高めます

NTT ファシリティーズの「揺れモニ」は各階センサー+クラウド解析で〈安全・注意・危険〉を2〜3分で色分け表示。

大成建設の「測震ナビ」は BCP 用スマホ画面に健全度を一覧し、多棟同時管理を想定taisei-techsolu.jp。大林組の「建物地震被災度即時推定システム」はセンサー未設置階も数値補間し、業界初の技術評価を取得しています。

鹿島建設の「q-NAVIGATOR」は結果をクラウドと館内モニタへ同時配信し、即時共有を可能にします。

各製品とも「加速度→変位→層間変形角」の順で演算し、信号色で示すため初見の保全担当者でも直感的に理解可能。導入時はセンサー電源の二重化と気温補正ロジックの有無を確認することが安定運用の鍵です。

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導入・運用時の注意点

SHMを導入の目的の多くは、地震後の建物安全性を素早く且つ、自動的に判定されることでしょう。

しかし、第3章でも見た通り、機械的なエラーの可能性や、技術的な限界も現状はまだまだある状況です。

今後さらなる技術革新により克服される可能性が高い課題が多いですが、大前提としてこれらのシステムから出される判定結果はあくまで「ひとつの指標」とだけ取られるべきであり、絶対的なものと考えないとするのが良いでしょう。

なぜなら、その結果を導き出す過程を知り得ることができないためです。

株式投資でも、色々な要因によって決まる株価に対して、様々な指標を用いて、最終的に自己判断で投資します。

考え方は、それに近いです。理想は、様々な指標により評価されて、建物の安全性は評価されるべきです。ただ、株式投資との決定的な違いは、「命に関わる一刻の有用もない状況」となり得ることでしょう。

この状況に対応するためには、システムに従うことを、社内ルールや、場合によっては契約の中で「当然にエラーが生じる可能性がある」ことを理解したうえで、組み込むことでしょう。

「エラーにより実際には「安全」の場合に、「危険」とシステムが判断しても、その結果により生じた不都合には目を瞑るというスタンスが社会に求められるようにペンギンは考えます。

まとめ|“測る”ことから始まるレジリエンス経営

構造ヘルスモニタリング(SHM)は「揺れを感じ取るセンサー」「AI 解析」「クラウド可視化」という 3 点セットで、被災後の初動を分単位に短縮し、長期劣化までも“数字”で見える化します。国土強靭化計画や各種補助制度が追い風となり、導入コストは年々低減。 とはいえ 残留変形の推定精度やセンサー保守 など、現状の限界を理解した上で“複数指標の一つ”として運用する姿勢が不可欠です。

若手エンジニアに求められるのは ①設計段階からセンサー配置をプランニング し、②電源・通信冗長や温度補正 など実装の勘所を押さえ、③データリテラシーを社内に根付かせる こと。まずは小規模施設でパイロット導入し、得られたデータを蓄積・検証することで、自社の“使いこなし力”を高めましょう。

“測らないリスク”は想像以上に高い。
センサーが語る建物の声を味方につけ、レジリエントな社会インフラづくりを次のステージへ──。

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