既存建物の改修計画では、しばしば次のような会話が交わされます。
「この壁は主要構造部だから、壊すと確認申請が必要ですよね」
「小梁は主要構造部ではないので、設備配管を通しても問題ありません」
「構造耐力上主要な部分を補強するのだから、大規模の修繕になります」
しかし、これらはいずれも、そのままでは正しいとは限りません。
「主要構造部」と「構造耐力上主要な部分」は、目的の異なる別の法令用語です。
両者を混同すると、建築確認の要否を誤るだけでなく、必要な構造検討を省略したり、反対に確認申請が必要ない工事を必要だと思い込んだりする可能性があります。
特に2025年4月以降は、いわゆる4号特例の見直しにより、木造2階建て住宅などで行う大規模の修繕・大規模の模様替が、新たに建築確認の対象となるケースが増えました。改修工事では、以前にも増して両者を正確に分けて考える必要があります。
この記事では、次の判断方法を整理します。
- 工事対象が「主要構造部」に当たるか
- 「構造耐力上主要な部分」に当たるか
- 大規模の修繕・大規模の模様替になる可能性があるか
- 改修工事で建築確認が必要になる可能性があるか
- 確認申請が不要でも、構造検討が必要か
- 既存不適格建築物では、どの資料と法令を確認すべきか
- 発注者、意匠設計者、構造設計者、施工者が何を担当するか
なお、以下は2026年時点の法令・国土交通省資料を基にした一般的な整理です。
個別案件では、建物の規模、用途、構造、工事範囲、既存状況、自治体の条例等を確認し、特定行政庁または指定確認検査機関へ事前相談する必要があります。

結論|主要構造部と構造耐力上主要な部分は何が違うのか

結論を先に示すと、次のように整理できます。
- 主要構造部
防火・避難、耐火性能、大規模の修繕・大規模の模様替などを判断するための法令上の部位区分 - 構造耐力上主要な部分
建物の自重、積載荷重、地震力、風圧力、積雪荷重、土圧、水圧などを支える構造安全上の部位区分
柱、大梁、耐震壁、上階の床スラブなど、両方に該当する部位は多くあります。
一方、基礎、基礎杭、筋かいなどは、構造耐力上は極めて重要ですが、法第2条第5号に列挙された「主要構造部」には含まれていません。
逆に、非耐力の外壁や防火区画を構成する間仕切壁は、構造計算上の耐力要素ではなくても、主要構造部に該当する場合があります。国土交通省も、主要構造部と構造耐力上主要な部分は別の概念であり、外壁は主要構造部に該当すると明示しています。
主要構造部と構造耐力上主要な部分の比較
| 比較項目 | 主要構造部 | 構造耐力上主要な部分 |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 建築基準法第2条第5号 | 建築基準法施行令第1条第3号 |
| 主な目的 | 防火・避難・耐火性能、大規模修繕等の法規判断 | 建物の荷重・外力に対する構造安全性の確保 |
| 代表部位 | 壁、柱、床、梁、屋根、階段 | 基礎、基礎杭、壁、柱、床版、屋根版、横架材、筋かい、土台、小屋組等 |
| 除外・非該当例 | 構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、小梁、最下階の床、庇、局部的小階段、屋外階段等 | 列挙された部位でも、建物の荷重や外力を支えないもの |
| 改修工事との関係 | 過半の修繕・模様替で「大規模」に該当する可能性 | 撤去・開口・補強・荷重増加時の構造検討対象 |
| 建築確認との関係 | 大規模の修繕・模様替の判定に直接関係 | 触るだけで直ちに確認申請が必要になるわけではない |
| 構造検討との関係 | 主要構造部でも構造耐力を負担しない場合がある | 原則として構造上の影響確認が必要 |
| 主な確認者 | 意匠設計者、確認申請担当者、行政・確認検査機関 | 構造設計者、構造担当者 |
法令上の定義は、建築基準法第2条第5号と施行令第1条第3号にそれぞれ置かれています。
実務では、次の3つを分けて判断することが重要です。
- 法令上、主要構造部に該当するか
- 構造上、建物の荷重や外力を負担しているか
- 工事内容と建物規模から、確認申請が必要か
この3つは、同じ結論になるとは限りません。
主要構造部とは何か

建築基準法第2条第5号では、主要構造部を次の6種類としています。
- 壁
- 柱
- 床
- 梁
- 屋根
- 階段
ただし、すべての壁、柱、床、梁、階段が一律に主要構造部になるわけではありません。
同号では、構造上重要でないものとして、間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小梁、庇、局部的な小階段、屋外階段などを除外しています。
「構造上重要」は構造計算上の意味だけではない
ここで注意したいのが、「構造上重要でない」という表現です。
一見すると、地震力や鉛直荷重を負担しない部位を意味するように見えます。
しかし、2025年3月26日の国土交通省の技術的助言では、主要構造部は防火上の観点から制限を受ける部分であり、「構造耐力上主要な部分」とは別の概念であると説明されています。
間仕切壁については、次のいずれかに該当するものは、主要構造部となる可能性があります。
- 鉛直荷重を負担する間仕切壁
- 防火区画を構成する間仕切壁
- 防火上・避難上の観点から建物を区画する間仕切壁
一方、これらに当たらない軽量間仕切壁などは、原則として主要構造部から除外されます。
また、国土交通省の技術的助言では、外壁は主要構造部に該当するとされています。
つまり、壁を判断するときは、耐力壁かどうかだけでなく、次の事項も確認しなければなりません。
- 外壁か内壁か
- 防火区画を構成しているか
- 避難経路を区画しているか
- 竪穴区画や異種用途区画に関係するか
- 荷重を負担しているか
主要構造部が使われる主な場面
主要構造部という用語は、主に次の制度で使われます。
- 耐火建築物・準耐火建築物等の性能規定
- 防火・避難関係規定
- 大規模の修繕
- 大規模の模様替
- 既存不適格建築物への遡及適用や緩和措置
- 建築確認の要否判断
したがって、主要構造部は「建物を力学的に支える骨組み」という意味だけではありません。
構造耐力上主要な部分とは何か

建築基準法施行令第1条第3号では、構造耐力上主要な部分として、次の部位を挙げています。
- 基礎
- 基礎杭
- 壁
- 柱
- 小屋組
- 土台
- 斜材
- 筋かい
- 方づえ
- 火打材
- 床版
- 屋根版
- 横架材
- 梁
- 桁など
ただし、名称が該当するだけでは足りません。
これらの部位のうち、建物の自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧、水圧、地震その他の振動・衝撃を支えるものが「構造耐力上主要な部分」です。
判断の基本は「荷重の流れ」
構造耐力上主要な部分かを判断するときは、部材名称よりも荷重の流れを確認します。
例えば、床の荷重は通常、次の経路で地盤へ伝達されます。
床スラブ
→ 小梁・大梁
→ 柱・耐震壁
→ 基礎
→ 基礎杭・地盤
地震時には、床スラブが水平力を各耐震要素へ伝える「水平構面」として機能することもあります。
したがって、一般に小梁が主要構造部から除外される場合でも、床荷重を大梁へ伝える小梁は、構造耐力上主要な部分に該当する可能性があります。
図面だけで判断できない場合もある
既存建物では、次の資料を確認します。
- 確認申請図
- 構造図
- 構造計算書
- 竣工図
- 配筋図
- 鉄骨製作図
- 杭施工記録
- 増改築・耐震改修履歴
- 現地の躯体寸法、配筋、接合部
- コンクリート強度、劣化状況
図面と現況が一致しないことも珍しくありません。既存建築物の現況調査について、国土交通省は2026年3月に「既存建築物の現況調査ガイドライン」第4版を公表し、既存部分を含む法適合状況の調査方法を示しています。

両者が重なる部位と重ならない部位

以下は一般的な整理です。実際の判断は、構造形式、部材の役割、防火区画、荷重条件、接合方法によって変わります。
| 部位 | 主要構造部 | 構造耐力上主要な部分 | 実務上の判断ポイント・改修時の注意 |
|---|---|---|---|
| 柱 | 原則該当 | 原則該当 | 間柱・付け柱との区別。撤去、断面欠損、補強は構造検討が必要 |
| 大梁 | 原則該当 | 原則該当 | 設備貫通、切欠き、耐火被覆撤去に注意 |
| 小梁 | 原則除外となる場合あり | 該当する可能性が高い | 床荷重を支える小梁は、主要構造部でなくても構造上重要 |
| 耐震壁 | 原則該当 | 該当 | 開口・コア抜きで耐力、剛性、配筋、防火区画を確認 |
| 非耐力間仕切壁 | 原則除外 | 原則非該当 | 防火区画・避難区画であれば主要構造部となる可能性 |
| 外壁 | 原則該当 | 構造形式による | 非耐力外壁でも主要構造部。仕上げのみか壁全体かを区別 |
| 上階床スラブ | 原則該当 | 原則該当 | 開口、増荷重、配筋切断、耐火性能を確認 |
| 最下階の土間床 | 原則除外 | 条件による | 土間床か耐圧版・基礎スラブかで結論が異なる |
| 屋根スラブ・屋根版 | 原則該当 | 原則該当 | 防水仕上げのみの改修と躯体改修を区別 |
| 屋根仕上げ | 原則として部材自体は非該当 | 原則非該当 | 葺き材のみの交換か、下地・垂木・母屋まで触るかを確認 |
| 屋内階段 | 原則該当 | 支持方法による | 架け替え範囲、避難幅、耐火、防火区画、支持梁を確認 |
| 屋外階段 | 原則除外となることが多い | 支持方法による | 避難上の役割や建物本体への定着部は別途確認 |
| 基礎 | 非該当 | 原則該当 | 基礎補強、増設、はつり、アンカー施工は構造検討対象 |
| 基礎杭 | 非該当 | 原則該当 | 杭位置、杭頭、負担荷重、増築による荷重増加に注意 |
| 筋かい | 非該当 | 原則該当 | 設備配管との干渉、撤去、接合部切断を防止 |
| 庇 | 原則除外 | 条件による | 大型庇は風圧・積雪・地震時慣性力と定着部を検討 |
| バルコニー | 要確認 | 該当する可能性あり | 片持ちスラブ、梁、手すり、避難経路、防水を区分して判断 |
| EVピット底板 | 原則、最下階床として除外の可能性 | 条件により該当 | 耐圧版、基礎梁、地下水圧を負担する場合は構造上重要 |
| 機械基礎 | 原則非該当 | 通常は要確認 | 建物基礎と一体か、単なる設備架台か。振動・集中荷重に注意 |
この表から分かるように、基礎、杭、筋かい、小梁は、主要構造部でない場合でも構造上重要になり得ます。
一方、非耐力外壁や防火区画壁は、構造計算上の耐震要素でなくても主要構造部となる場合があります。
主要構造部と大規模の修繕・大規模の模様替

建築基準法第2条では、次のように定義されています。
- 大規模の修繕
建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕 - 大規模の模様替
建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替
国土交通省資料では、修繕を「劣化した部分を既存と概ね同じ材料・仕様で造り替える工事」、模様替を「既存とは異なる材料・仕様で造り替える工事」と説明しています。
過半は主要構造部の種類ごとに判断する
「建物全体の半分を改修するか」ではありません。
国土交通省資料では、過半の判断方法として次の目安が示されています。
| 主要構造部 | 過半を判断する主な母数 |
|---|---|
| 壁 | 総面積 |
| 柱 | 総本数 |
| 梁 | 総本数 |
| 床 | 総水平投影面積 |
| 屋根 | 総水平投影面積 |
| 階段 | 各階ごとの総数・段数等 |
例えば、床、柱、梁の工事範囲がそれぞれ30%であれば、単純に合計して90%として大規模と判断するわけではありません。主要構造部の種類ごとに過半を判定します。
屋根防水や外壁仕上げの全面改修はどうなるか
工事範囲が全面だからといって、必ず大規模の修繕になるわけではありません。
国土交通省資料では、原則として次の工事は大規模の修繕・模様替に該当しない例として示されています。
- 屋根葺き材のみの改修
- 既存屋根の上へ新しい屋根を施工するカバー工法
- 外壁の外装材のみの改修
- 外壁の内側から行う断熱改修
- 既存外壁へ新しい仕上げを被せる工事
- 床仕上げ材のみの改修
- 既存床仕上げの上へ新しい仕上げを施工する工事
ただし、仕上げ材を撤去することで、屋根や外壁を構成するすべての材料を更新することになる場合は、改修面積が過半なら大規模の修繕・模様替に該当する可能性があります。
工事別の考え方
| 工事内容 | 原則的な考え方 |
|---|---|
| 屋根防水だけを全面更新 | 防水・葺き材のみなら、通常は大規模修繕に直結しない |
| 外壁塗装・タイル補修 | 仕上げのみなら、通常は外壁全体の模様替とはしない |
| 垂木・母屋・野地板まで過半更新 | 屋根の大規模修繕・模様替となる可能性 |
| 外壁下地・構造用面材まで過半更新 | 壁の大規模修繕・模様替となる可能性 |
| 床スラブの部分撤去 | 過半でなければ通常は大規模に至らないが、構造検討は必要 |
| 屋内階段1基を全面架け替え | その階の階段数・範囲によって過半となる可能性 |
| 耐震壁を新設・撤去 | 面積だけでなく、増築・改築該当性、構造安全、防火区画を確認 |
| 柱・梁を補強 | 補強方法と範囲により判断。安全側の工事でも法規確認は必要 |
| 木造屋根の全面葺き替え | 葺き材のみか、下地・垂木まで更新するかで結論が異なる |
改修工事で建築確認が必要になるのはどのような場合か

主要構造部を触るだけで、直ちに建築確認が必要になるわけではありません。
確認申請の要否は、次の順序で判断します。
ステップ1 工事種別を整理する
最初に、工事が次のどれに該当するかを確認します。
- 増築
- 改築
- 移転
- 大規模の修繕
- 大規模の模様替
- 用途変更
- 上記に該当しない改修
内部にメゾネット床を追加する工事でも、床面積が増加すれば「増築」として扱われる可能性があります。単なる模様替と決めつけてはいけません。国土交通省資料でも、増築は「建築物の延べ面積を増加させること」と整理されています。
ステップ2 大規模の修繕・模様替かを判定する
次を確認します。
- 対象が主要構造部か
- 修繕または模様替に当たるか
- その種類について過半か
いずれかが外れれば、原則として法第2条の「大規模」には該当しません。
ステップ3 建物が法第6条第1項のどの区分かを確認する
2025年4月以降、建築確認対象は次のように整理されています。
| 区分 | 主な建築物 | 大規模修繕・模様替の確認 |
|---|---|---|
| 法第6条第1項第1号 | 特殊建築物で対象用途部分が200㎡超 | 原則必要 |
| 法第6条第1項第2号・新2号建築物 | 階数2以上、または延べ面積200㎡超 | 原則必要 |
| 法第6条第1項第3号・新3号建築物 | 平家かつ延べ面積200㎡以下で、都市計画区域等内 | 大規模修繕・模様替だけなら原則対象外 |
| 上記以外 | 区域・規模・用途等による | 個別確認 |
2025年4月以降は、構造種別を問わず、原則として「階数2以上または延べ面積200㎡超」が新2号建築物となりました。このため、従来は大規模リフォーム時の確認が不要だった木造2階建て住宅などでも、確認申請が必要となるケースがあります。
ステップ4 用途変更を別に判定する
用途変更は、大規模修繕とは別に法第87条で判断します。
確認項目は次のとおりです。
- 変更前後の用途
- 特殊建築物用途への変更か
- 用途変更部分の床面積
- 類似用途相互間の変更か
- 防火、避難、採光、換気、排煙、階段、内装制限
- 用途地域の用途制限
- 消防法上の用途変更
主要構造部に触れなくても、用途変更によって確認申請や法適合検討が必要になる場合があります。
確認申請の簡易フロー
| 判断 | Yesの場合 |
|---|---|
| 床面積を増やすか | 増築として確認申請要否を判定 |
| 建物の一部を除却して同等のものを再建するか | 改築該当性を判定 |
| 主要構造部を修繕・模様替するか | 次へ |
| 主要構造部の一種類以上が過半か | 大規模修繕・模様替として次へ |
| 法6条1項1号または2号建築物か | 原則として確認申請が必要 |
| 用途変更を伴うか | 法87条による確認申請要否を別途判定 |
| いずれにも該当しないか | 確認不要の可能性。ただし法適合・構造安全の検討は継続 |
確認申請が不要であることと、建築基準法に適合しなくてよいことは全く別です。
国土交通省も、確認手続が不要なリフォームであっても、工事後の建築物は建築基準法の規定に適合する必要があると説明しています。
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確認申請が不要でも構造検討が必要な工事

大規模の修繕・模様替に至らない局部的な工事でも、構造安全性を損なうことがあります。
| 工事例 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 耐震壁へのコア抜き | 鉄筋切断、開口補強、せん断耐力、剛性、防火区画 |
| 柱・梁への設備配管貫通 | 断面欠損、主筋・鉄骨フランジ・ウェブへの影響、補強 |
| 床スラブへの大型開口 | 配筋、支持条件、開口周囲補強、振動、たわみ |
| 既存床への重量物設置 | 積載荷重、集中荷重、パンチング、梁・柱・基礎への影響 |
| あと施工アンカー | コンクリート強度、へりあき、埋込み長さ、鉄筋干渉、設計責任 |
| 屋上への太陽光・室外機設置 | 固定荷重、風荷重、地震力、防水、架台定着 |
| 階段・庇の撤去 | 本体への荷重影響、避難経路、外壁開口、防水 |
| メゾネット床の増設 | 増築該当性、積載荷重、梁・柱・基礎、防火区画、避難 |
| 間仕切壁・天井の重量増加 | 床荷重、地震時慣性力、脱落防止 |
| 外壁への大型看板設置 | 風圧力、地震力、外壁下地、アンカー、落下防止 |
例えば、耐震壁に直径65mmのコアを1か所設ける工事は、通常、壁の過半を模様替する工事ではありません。そのため、その行為だけで大規模の模様替となる可能性は低いと考えられます。
しかし、鉄筋を切断すれば耐震性能を低下させるおそれがあり、防火区画壁なら区画貫通処理も必要です。
つまり、
確認申請が不要
=構造検討が不要
=自由に施工してよい
ではありません。
既存不適格建築物との関係

既存不適格建築物とは、建築当時は適法だったものの、その後の法改正、都市計画の変更、区域指定などにより、現在の規定に適合しなくなった建築物です。
無確認の増築や違法な用途変更などによる「違反建築物」とは異なります。
建築基準法第3条第2項により既存不適格として適用除外を受けている建築物でも、増築、改築、大規模の修繕・大規模の模様替などを行うと、現行規定への遡及適用が問題になります。
ただし、すべての規定を無条件に建物全体へ適用するわけではありません。法第86条の7と施行令第137条の2以下には、工事内容や危険性の増大の有無などに応じた緩和措置があります。
既存不適格建築物で確認すべき資料
- 当初の確認済証
- 検査済証
- 建築確認台帳記載事項証明
- 当初設計図・構造図
- 構造計算書
- 過去の増築・用途変更履歴
- 改修図・耐震改修図
- 法第12条定期報告資料
- 現況調査報告書
- 登記事項証明書
- 航空写真・過去写真
- 現地の寸法、仕様、劣化状況
国土交通省の現況調査ガイドラインでは、増築等や用途変更を行う部分だけでなく、工事を行わない既存部分についても、建築基準法令への適合状況を確認する考え方が示されています。
実務では、最初から「既存不適格だから緩和できる」と判断してはいけません。
まず、
- 建築当時の適法性
- 既存不適格となった基準時
- 違法な増改築の有無
- 今回工事により危険性が増大しないか
- 法第86条の7等の緩和条件
を確認する必要があります。
実務でよくある誤解

誤解1 主要構造部と構造耐力上主要な部分は同じである
同じではありません。
主要構造部は防火・避難・大規模修繕等に関する部位区分、構造耐力上主要な部分は荷重・外力を支える部位区分です。
誤解2 柱、梁、床はすべて主要構造部である
間柱、付け柱、小梁、最下階の床など、除外されるものがあります。
誤解3 小梁は構造部材なので、必ず主要構造部である
構造耐力上主要な部分に該当しても、主要構造部からは除外される場合があります。
誤解4 最下階の床はすべて主要構造部である
法第2条第5号では、最下階の床は除外例とされています。
ただし、最下階床が基礎スラブや耐圧版を兼ねていれば、構造耐力上主要な部分となる可能性があります。
誤解5 屋外階段は必ず主要構造部である
屋外階段は主要構造部から除外される例に含まれます。ただし、避難施設としての適法性、建物本体への支持・定着、構造安全性は別途確認が必要です。
誤解6 主要構造部でなければ構造検討は不要である
基礎、杭、筋かい、小梁などが典型的な反例です。
誤解7 構造耐力上主要な部分を触れば必ず確認申請が必要である
局部的な開口や補強が、必ず大規模の修繕・模様替になるわけではありません。確認申請は、工事種別、工事範囲、建物区分を基に判断します。
誤解8 確認申請が不要なら建築基準法を確認しなくてよい
手続が不要でも、構造、防火、避難、採光、換気、排煙、用途制限などへの適合義務は残ります。
誤解9 補強工事は安全側なので確認不要である
補強によって荷重の流れ、剛性分布、応力集中、基礎負担、耐火被覆が変わることがあります。補強部だけでなく周辺部材も検討対象です。
誤解10 既存図面があるため現地調査は不要である
図面と現況が一致している保証はありません。無断開口、設備改修、耐火被覆欠損、増床などを現地で確認する必要があります。
発注者・設計者・構造設計者・施工者の責任分担

| 関係者 | 主な役割 |
|---|---|
| 発注者・PM・CM | 既存資料の収集、工事目的と範囲の明確化、調査・設計費の確保、行政協議期間の工程反映、構造検討を省略しない意思決定 |
| 意匠設計者 | 主要構造部の整理、大規模修繕・模様替の判定、確認申請要否、防火・避難・用途変更の整理、構造・設備・消防との調整 |
| 構造設計者 | 荷重の流れ、部材の役割、撤去・開口・補強・増荷重の影響、必要な補強設計、施工順序・仮設状態の確認 |
| 設備設計者 | 配管・ダクト・機器の位置、荷重、躯体貫通、区画貫通、あと施工アンカーの条件整理 |
| 施工者 | 設計図書との照合、無断撤去・無断穴あけの防止、既存状況の報告、施工記録、配筋・アンカー・補強写真の保存 |
| 行政・確認検査機関 | 確認申請対象となる計画の法適合審査、個別案件の運用確認 |
重要なのは、最終判断を行政や施工者へ丸投げしないことです。
行政や指定確認検査機関は、計画内容に基づき法令上の審査を行いますが、既存建物の実態調査、構造安全性の設計、工事品質の確保は、建築主、設計者、工事監理者、施工者の責任で進める必要があります。
改修工事で確認すべき実務チェックリスト

| 段階 | 主なチェック項目 |
|---|---|
| 企画・物件取得時 | 確認済証、検査済証、用途、竣工年、増改築履歴、既存不適格・違反の可能性 |
| 基本計画時 | 工事種別、床面積増加、用途変更、主要構造部への影響、行政協議の要否 |
| 既存建物調査時 | 意匠図、構造図、構造計算書、配筋、耐火被覆、防火区画、現況との不一致 |
| 設計時 | 撤去、開口、荷重増加、補強、区画貫通、避難経路、施工順序 |
| 確認申請判定時 | 法6条区分、主要構造部、過半判定、増築・改築、大規模修繕・模様替、用途変更 |
| 施工計画時 | 仮設補強、支保工、施工時荷重、コア位置、鉄筋探査、アンカー位置 |
| 施工中 | 無断変更防止、隠蔽前検査、配筋・鉄骨・アンカー記録、既存不整合の報告 |
| 竣工時 | 完成図、構造検討書、補強記録、施工写真、試験結果、確認・検査書類の保存 |
発注者側では、確認申請の有無だけでなく、次の成果物を契約上明確にしておくことが重要です。
- 主要構造部判定表
- 確認申請要否整理書
- 既存建物調査報告書
- 構造検討書
- 補強図
- 行政・確認検査機関との協議記録
- 施工写真・試験記録
- 竣工図・改修履歴
ケーススタディ

ケース1 木造住宅の屋根を全面的に葺き替える
主要構造部との関係
屋根は主要構造部ですが、屋根葺き材のみの交換やカバー工法は、原則として大規模の修繕・模様替に該当しない例とされています。
構造耐力上主要な部分との関係
垂木、母屋、屋根版、水平構面まで改修する場合は、構造耐力上の検討が必要です。
確認申請
2階建てまたは延べ面積200㎡超で、屋根を構成する主要な材料まで過半改修する場合は、確認申請が必要となる可能性があります。
必要資料
既存伏図、軸組図、屋根仕様、改修範囲図、荷重比較、耐震性確認資料。
注意点
軽い屋根から重い屋根への変更は、耐震性能へ大きく影響します。
ケース2 事務所ビルの床スラブに設備開口を設ける
主要構造部との関係
上階の床は原則として主要構造部です。
構造耐力上主要な部分との関係
床スラブは通常、鉛直荷重と水平力伝達を担うため該当します。
確認申請
局部的な開口だけで、床の過半の修繕・模様替になる可能性は通常高くありません。ただし、用途変更、増築、他の大規模改修と一体の場合は別です。
構造検討
配筋探査、開口位置、開口補強、スラブ厚、支持条件を確認します。
関係者
設備設計者が希望位置を示し、構造設計者が可否を判断し、施工者が探査結果と施工記録を残します。
ケース3 倉庫の耐震壁に配管用コアを設ける
主要構造部との関係
耐震壁は主要構造部に該当します。
構造耐力上主要な部分との関係
地震力を負担するため該当します。
確認申請
小規模なコア1か所だけで大規模の模様替になるとは限りません。
構造検討
壁筋の切断、開口周囲の応力、せん断耐力、境界梁・柱との位置関係を確認します。
その他の確認
防火区画壁の場合は、配管貫通部の防火措置も必要です。
必要資料
構造図、配筋図、耐震診断書、鉄筋探査結果、コア位置図、補強詳細。
ケース4 既存ビルの階段を撤去して架け替える
主要構造部との関係
屋内階段は原則として主要構造部です。
構造耐力上主要な部分との関係
階段本体は令第1条第3号に名称として明記されていませんが、階段を支持する梁、壁、床、接合部は構造耐力上主要な部分となる可能性があります。
確認申請
その階に1基しかない階段を全面架け替える場合などは、階段の過半の模様替として確認申請が必要となる可能性があります。
法規確認
階段幅、蹴上げ、踏面、手すり、避難距離、竪穴区画、耐火性能を確認します。
施工上の注意
既存階段撤去中の避難経路と仮設支持を計画します。
ケース5 既存建物に部分的なメゾネット床を新設する
主要構造部との関係
新設床、梁、柱は、主要構造部となる可能性があります。
構造耐力上主要な部分との関係
床、梁、柱、接合部は、新設荷重を支える構造耐力上主要な部分です。
確認申請
床面積が増加する場合は、単なる模様替ではなく「増築」と扱われる可能性があります。増築後の建物区分、区域、増築面積を基に確認申請要否を判断します。
構造検討
既存梁・柱・基礎の余力、接合方法、床振動、偏心、地震時重量増加を確認します。
防火・避難
階の扱い、吹抜け、排煙、階段、区画、内装制限、避難安全を再整理します。
必要資料
既存構造図、構造計算書、現地調査、増築面積算定図、補強計画、法規チェック図。
まとめ
主要構造部と構造耐力上主要な部分は、名前が似ていますが、目的の異なる法令用語です。
- 主要構造部は、壁、柱、床、梁、屋根、階段を基本とし、防火・避難・耐火性能、大規模の修繕・模様替などの判断に使われる
- 構造耐力上主要な部分は、基礎、杭、壁、柱、床版、屋根版、梁、筋かいなど、建物の荷重や外力を支える部分である
- 両者は重なる部位が多いが、完全には一致しない
- 基礎、杭、筋かい、小梁は、主要構造部でなくても構造上重要になり得る
- 非耐力外壁や防火区画壁は、構造耐力要素でなくても主要構造部となり得る
- 主要構造部を触るだけで、必ず確認申請が必要になるわけではない
- 構造耐力上主要な部分を改修しても、必ず大規模の修繕・模様替になるわけではない
- 確認申請が不要でも、構造安全性、防火、避難、法適合の検討は必要である
改修工事では、部材の名称だけで判断してはいけません。
法令上の部位区分、実際の荷重の流れ、工事範囲、建物規模、用途変更、既存不適格の有無を分けて整理することが重要です。
発注者は「確認申請が必要か」という結論だけでなく、
- 誰が既存建物を調査するのか
- 誰が構造安全性を確認するのか
- どの段階で行政協議を行うのか
- どの図面・計算書・施工記録を保存するのか
まで事業計画に組み込む必要があります。

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