耐震診断結果を見るとき、多くの人が最初に探すのは「Is値」です。
「Is値が0.6以上だから安全」
「0.3しかないから、すぐに使えなくなる」
「自治体の公表区分がⅢなので問題ない」
しかし、耐震診断結果は一つの数値だけで判断できるものではありません。
同じ建物でも、階や方向によって耐震性能は異なります。診断方法、構造種別、コンクリート強度、劣化状況、建物形状、増改築履歴によっても評価の意味は変わります。
また、自治体が公表するⅠ・Ⅱ・Ⅲの判定区分は、個別の地震で倒壊するかどうかを予言するものではありません。
2026年7月時点では、耐震診断義務付け対象建築物の結果は、耐震改修促進法と国土交通省の技術的助言に基づき、所管行政庁のウェブサイトなどで公表されています。公表表では、診断方法ごとにIs値、q値、CTU・SD値などを組み合わせ、安全性をⅠ・Ⅱ・Ⅲに区分しています。国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」、東京都「耐震診断結果等の公表」
この記事では、耐震診断書や自治体の公表結果を確認したときに、次の行動を判断できるようにします。
- Is値、q値、CTU・SD値が何を示すか
- 判定区分Ⅰ・Ⅱ・Ⅲをどう読むか
- 階別・方向別の弱点をどう見つけるか
- 診断結果だけでは分からないリスクは何か
- 追加調査、耐震補強、行政協議のどれが必要か
- 売買・賃貸・融資の判断にどう反映するか
ただし、この記事だけで個別建物の安全性を断定することはできません。最終判断には、耐震診断書本体、構造図、現地調査結果、増改築履歴などの確認が必要です。

耐震診断とは何か
耐震診断とは、既存建物が地震の揺れに対して、どの程度の耐震性能を持っているかを評価するものです。
新築時の構造計算は、計画建物が建築基準法令などの要求性能を満たすように設計するための計算です。一方、耐震診断は、すでに存在する建物の図面、材料強度、施工状況、劣化、形状などを調査し、現時点で期待できる耐震性能を評価します。
両者は目的も計算体系も同じではありません。
旧耐震基準と新耐震基準
一般に、1981年6月1日より前の耐震基準を「旧耐震基準」、同日以降を「新耐震基準」と呼びます。
旧耐震建物は、主として中規模地震に対する損傷防止を中心に設計されていました。新耐震基準では、中規模地震に対する損傷防止に加え、大規模地震に対して倒壊・崩壊しないことを確認する考え方が明確になりました。
ただし、確認申請日や竣工日だけで単純に判断してはいけません。基準法令の適用時点は、原則として着工時期なども関係します。
また、次の点にも注意が必要です。
- 旧耐震建物でも、十分な壁量や良好な施工により高い耐震性能を持つ場合がある
- 新耐震建物でも、劣化、不適切な増改築、施工不良などにより問題を抱える場合がある
- 1981年以降も構造関係規定は改正されている
- 木造では2000年基準、鉄骨造では接合部や柱脚、溶接など別の確認点がある
「旧耐震=危険」「新耐震=無条件に安全」という理解は正確ではありません。
耐震診断結果が公表される建物とは
すべての旧耐震建物について、耐震診断や結果公表が義務付けられているわけではありません。
耐震改修促進法では、主に次の建物について耐震診断を義務付け、所有者から所管行政庁へ報告された結果を公表する制度を設けています。
要緊急安全確認大規模建築物
原則として、旧耐震基準で建築された大規模な建物のうち、次のような用途・規模に該当するものです。
- 病院、店舗、旅館、ホテルなど、不特定多数が利用する大規模建築物
- 小学校、老人ホーム、福祉施設など、避難上特に配慮を要する人が利用する大規模建築物
- 一定量以上の危険物を貯蔵・処理する建築物
具体的な対象用途と規模は、耐震改修促進法附則、同法施行令などによって定められています。
要安全確認計画記載建築物
都道府県や市町村の耐震改修促進計画に記載された、次のような建物です。
- 地震時に倒壊すると避難路を閉塞するおそれのある沿道建築物
- 都道府県が指定する防災拠点建築物
- 計画上、耐震診断を義務付けられた組積造の塀など
沿道建築物については、単に道路に面しているだけでは対象になりません。指定された道路との関係、建物高さ、前面道路幅員、道路境界線までの距離などから、倒壊時に道路を閉塞する可能性がある建物が対象になります。
多数の者が利用する建築物との違い
耐震改修促進法では、一定規模以上の学校、事務所、共同住宅、店舗などを「特定既存耐震不適格建築物」として、耐震診断・耐震改修に努める対象としています。
しかし、該当するすべての建物について、診断結果が一律に公表されるわけではありません。
したがって、
自治体の公表一覧に載っていないから、耐震性に問題がない
とは判断できません。
単に、公表義務の対象外である可能性があります。

Is値とは何か

Is値は「構造耐震指標」と呼ばれ、主に既存RC造、SRC造、S造などの耐震性能を評価するときに用いられます。
基本的な考え方は、次の要素を組み合わせて、各階・各方向の耐震性能を数値化することです。
- 建物が地震力に耐える強度
- 変形しても直ちに壊れない靱性
- 平面・立面形状のバランス
- 経年劣化の影響
RC造の耐震診断では、概念的に次のように表されます。
$$
Is = E_0 \times S_D \times T
$$
- (E_0):保有性能基本指標。強度と靱性を評価する
- (S_D):形状指標。平面・立面の不整形、剛性率、偏心などを考慮する
- (T):経年指標。ひび割れ、変形、劣化などを考慮する
実際の算定式や各指標の扱いは、構造種別、診断次数、診断基準の版によって異なります。
Is値は階・方向ごとに算定される
Is値は「建物全体で一つ」とは限りません。
一般的には、各階についてX方向・Y方向それぞれの値を算定します。例えば、次のような結果になることがあります。
| 階 | X方向 | Y方向 |
|---|---|---|
| 5階 | 0.72 | 0.68 |
| 4階 | 0.66 | 0.63 |
| 3階 | 0.59 | 0.65 |
| 2階 | 0.51 | 0.62 |
| 1階 | 0.32 | 0.58 |
この例では、1階X方向が建物の明確な弱点です。
全階の平均値を出して安心するのではなく、どの階・方向がボトルネックになっているかを確認する必要があります。
Is値0.6以上なら絶対に安全なのか
一般的な耐震診断で「Is値0.6以上」が一つの目安として示されることはあります。しかし、0.6はすべての建物に共通する絶対的な安全境界ではありません。
必要とされる構造耐震判定指標Isoは、基本的に次のような補正を含みます。
$$
Iso = Es \times Z \times G \times U
$$
- (Es):基本となる耐震判定指標
- (Z):地域指標
- (G):地盤指標
- (U):用途指標
学校、庁舎、防災拠点などでは、用途に応じて一般建物より高い性能が求められる場合があります。また、地盤条件や診断方法によって判定値が変わることもあります。
さらに、Is値が基準を満たしていても、次の性能まで保証するものではありません。
- 地震後も無被害で使い続けられる
- 外壁や天井が落下しない
- 設備が停止しない
- 家具や商品棚が転倒しない
- 液状化や杭被害が発生しない
- 想定を超える地震でも安全である
Is値は、主として構造体の倒壊・崩壊リスクを評価する指標です。事業継続性や地震後の使用可能性を直接表すものではありません。
q値、CTU・SD値は何を表すのか

耐震診断結果では、Is値の隣にq値、CT・SD値、CTU・SD値などが記載されることがあります。
これらは、建物が一定以上の水平耐力を確保しているかを確認するための指標です。
q値
q値は、主として建物の保有水平耐力が必要な水平耐力に対してどの程度あるかを示す指標です。
Is値は強度と靱性を組み合わせて評価するため、変形能力が大きいと、強度が小さくても一定の値になる場合があります。
そこでq値を併用し、靱性評価だけに依存せず、最低限必要な強度を持っているかを確認します。
国土交通省の公表区分では、告示の診断方法などについて、原則として次の組合せが使われます。
| 区分 | 代表的な条件 |
| Ⅰ | Is<0.3、またはq<0.5 |
| Ⅱ | ⅠにもⅢにも該当しない |
| Ⅲ | Is≧0.6、かつq≧1.0 |
ただし、この数値はすべての診断方法に共通するわけではありません。
CT・SD値、CTU・SD値
RC造やSRC造の第2次・第3次診断では、CT・SDまたはCTU・SDが使われます。
- CT:建物の累積強度を表す指標
- CTU:終局限界時の累積強度を考慮した指標
- SD:建物形状や剛性分布の影響を表す形状指標
要するに、建物が「粘り強い」という評価だけでなく、各階に必要な強度が確保されているかを確認するための指標です。
例えば、RC造の2001年版・2017年版の第2次・第3次診断について、2026年7月時点の国土交通省技術的助言では、代表的に次のように区分されます。
| 区分 | Is/Iso | CTU・SD |
| Ⅰ | 0.5未満 | または (0.15ZGU) 未満 |
| Ⅱ | ⅠにもⅢにも該当しない | 同左 |
| Ⅲ | 1.0以上 | かつ (0.3ZGU) 以上 |
つまり、「Isが高い」というだけでは区分Ⅲにならないことがあります。強度側のCTU・SDも同時に満たす必要があるからです。国土交通省「耐震診断義務付け対象建築物の耐震診断結果公表に関する技術的助言」
なお、1990年版、2001年版、2017年版、SRC造の充腹・非充腹などによって対応表は異なります。公表値を読むときは、必ず「診断方法の名称」と「基準の版」を先に確認してください。
第1次・第2次・第3次診断の違い
第1次から第3次へ進むほど、単純に「精度が上がる」というより、評価できる建物の破壊形式や構造特性が広がります。
| 項目 | 第1次診断 | 第2次診断 | 第3次診断 |
| 主な対象 | 壁量が多い比較的単純なRC造など | 一般的な中低層RC造・SRC造 | 梁降伏や複雑な架構を含む建物 |
| 主な評価 | 柱・壁断面から略算 | 柱・壁の強度・靱性 | 柱・壁に加え梁・架構全体 |
| 必要資料 | 図面、概要資料 | 構造図、配筋、材料調査 | 詳細図面、接合部、部材情報 |
| 現地調査 | 概略調査中心 | コア採取、配筋・劣化調査 | 第2次以上の詳細調査 |
| 適用性 | 壁式・壁の多い建物向き | 最も一般的 | 特殊・複雑な建物向き |
| 計算負荷 | 小さい | 中程度 | 大きい |
| 費用 | 比較的低い | 標準的 | 高くなりやすい |
| 期間 | 短い | 数か月程度が一般的 | 長期化しやすい |
| 適する段階 | スクリーニング | 補強要否の判断 | 詳細な破壊機構の確認 |
第1次診断で低かったら必ず第2次診断か?
第1次診断は適用性が高く、明らかに耐震性能が不足している場合は、その結果を基に補強方針を検討できることがあります。
一方で、次の場合は第2次・第3次診断を検討します。
- 第1次診断の適用範囲から外れる
- 壁が少ないラーメン構造である
- 柱の靱性を適切に評価する必要がある
- 第1次診断では保守的すぎる
- 補強量や工事費を合理化したい
- 売買や融資のために、より確度の高い評価が必要
- 特殊な架構や増築部分がある
診断次数は、建物の構造特性と意思決定の目的から選ぶものです。
判定区分Ⅰ・Ⅱ・Ⅲをどう読むか

自治体の公表資料では、構造耐力上主要な部分の地震に対する安全性が、次の3区分で示されます。
| 区分 | 公表上の意味 |
| Ⅰ | 地震の震動・衝撃に対して倒壊・崩壊する危険性が高い |
| Ⅱ | 倒壊・崩壊する危険性がある |
| Ⅲ | 倒壊・崩壊する危険性が低い |
この評価は、震度6強から7程度の大規模地震に対する安全性を示します。
ただし、これは「区分Ⅰなら次の地震で必ず倒壊する」「区分Ⅲなら被害ゼロ」という意味ではありません。
地震被害は、震源特性、周期、継続時間、地盤、建物の劣化状況、過去の被災履歴などにも左右されます。
また、区分Ⅰ・Ⅱであっても、それだけを理由として違反建築物になるわけではありません。東京都もこの点を明記しています。東京都「耐震診断結果等の公表」
公表区分を見るときの順番
- 診断方法と基準年版を確認する
- Is、Is/Iso、q、CTU・SDのどれが使われているか確認する
- 公表値が各階・各方向の最小値か確認する
- 補強済み、補強予定、除却予定などの備考を見る
- 診断後の増改築や劣化が反映されているか確認する
- 必要に応じて診断書本体を入手する
例えば東京都の公表表では、原則として建物の各階・各方向の最小値が掲載されます。塔屋のように階数に算入されない部分は除外される扱いもあるため、公表表だけでは全診断結果を把握できません。東京都「要安全確認計画記載建築物の耐震診断結果」
階・方向ごとに数値が異なる場合

耐震診断結果では、最低値を見ることが重要です。
しかし、最低値だけを切り取ると、建物の弱点が生じた理由や、補強の難しさを理解できません。
X方向とY方向
長方形平面の建物では、一方向に耐震壁が多く、直交方向はラーメン架構だけということがあります。
この場合、方向別に耐震性能が大きく異なります。
確認すべきなのは、単なる数値差だけでなく、
- 壁配置
- 柱スパン
- 開口
- 偏心
- 建物のねじれ
- エキスパンションジョイント
です。
ピロティ階
共同住宅、ホテル、事務所では、1階を駐車場やロビーとしたため壁が少なく、上階より剛性・耐力が急減していることがあります。
上階のIs値が高くても、1階だけが低ければ、1階への変形集中が建物全体の倒壊リスクを支配します。
セットバック階
上層階が後退している建物では、柱・壁の位置が上下でずれ、剛性や重量が急変する階が弱点になる場合があります。
増築部・エキスパンションジョイント
増築部は、既存部と別棟として挙動するのか、一体構造として力を伝えるのかを確認します。
エキスパンションジョイントがあっても、クリアランス不足により地震時に衝突する可能性があります。
ここで重要なのは、図面上の寸法をそのまま現況寸法だと思い込まないことです。仕上げ材やカバーで実際の隙間が分かりにくいこともあれば、改修によって納まりが変わっていることもあります。物件取得前調査や改修計画の初期段階では、柱・壁・開口、天井高さ、エキスパンションジョイント周辺などを概測し、診断書の前提と現況が合っているかを確認します。
こうした概測には、BOSCHのようなコンパクトなレーザー距離計があると便利です。巻尺では測りにくい階高や長い壁間寸法を、一人でも短時間で確認しやすくなります。一方、柱・梁の断面、細かな隙間、設備との離隔などはレーザー距離計よりコンベックスの方が確実です。現地調査では、レーザー距離計と5.5m程度のコンベックスを使い分けると、記録の抜けを減らせます。
あとから「あの寸法も測っておけばよかった」と気づき、再び現地へ行った経験はありませんか?
1人での現地確認を、もっと速く確実に
天井高さ、壁間寸法、廊下幅、柱スパンなど、コンベックスでは測りにくい長い距離をその場で確認。既存建物の調査や図面との照合を効率化したい技術者に、レーザー距離計は相性のよい道具です。
-
一人でも測りやすい
反対側でテープを押さえてもらう手間を減らせます -
高い場所や長い距離に便利
天井高さや壁間寸法の初期確認がスムーズです -
再訪リスクを抑える
現地で確認できる寸法を増やし、測り直しを防ぎます
Bosch Professional(ボッシュ)
レーザー距離計 GLM400【正規品】
※精密な出来形確認や構造安全性の判定では、測定条件や必要精度を確認し、適切な測定機器・調査方法を選定してください。
塔屋
塔屋は公表一覧の最低値から除外される場合があります。しかし、高置水槽、設備機器、外装材などがあるため、非構造部材を含む安全性確認は必要です。
構造種別による耐震診断の違い
| 構造種別 | 主な確認点 |
| RC造 | コンクリート強度、柱・壁量、短柱、せん断破壊、偏心、配筋 |
| SRC造 | RC部分と鉄骨部分の協働、鉄骨形式、充腹・非充腹、接合部 |
| S造 | ブレース、柱梁接合部、溶接、局部座屈、柱脚、腐食 |
| 木造 | 上部構造評点、壁量、壁配置、接合部、基礎、屋根重量、劣化 |
| 混構造 | 構造切替部、応力伝達、剛性差、接合方法 |
| 壁式構造 | 壁量、壁配置、開口、壁梁、上下階の連続性 |
木造住宅では、一般にIs値ではなく「上部構造評点」が使用されます。国土交通省の公表区分では、代表的に0.7未満がⅠ、0.7以上1.0未満がⅡ、1.0以上がⅢに対応します。
したがって、「すべての建物はIs値0.6で判定する」という説明は誤りです。
S造ではIs・qを使用する方法がありますが、柱脚や溶接部の現況、ブレース接合部の保有耐力などが評価を大きく左右します。数値だけでなく、現地で接合部を確認することが重要です。
劣化・地盤・非構造部材も確認する

耐震診断の構造数値が良好でも、地震時の安全性に重大な問題が残る場合があります。
構造体・材料
- コンクリート圧縮強度
- 中性化深さ
- 鉄筋腐食
- ひび割れ
- 鉄骨腐食
- 溶接欠陥
- ボルト接合
- 柱脚
- 基礎・杭
コンクリート強度が設計基準強度を下回る場合、計算モデルや補強方法の再検討が必要です。
ひび割れや錆汁、柱脚周辺の腐食、接合部の変形などは、位置と状態を写真で記録します。ただし、既存建物では機械室、EPS・PS、倉庫奥、床下点検口周辺などが暗く、スマートフォンのライトだけでは広い範囲と細部を同時に確認しにくいことがあります。
充電式の小型LED作業灯は、こうした暗所確認で使いやすい道具です。マグネット付きであれば、鉄骨部材や設備架台などに固定し、両手を空けて図面・コンベックス・カメラを扱えます。懐中電灯のように一点だけを照らすものより、面で照らせるタイプの方が、ひび割れや漏水跡、部材周辺の状況を写真に残しやすいでしょう。
ただし、照明があれば天井裏や地下ピットへ自由に入ってよいわけではありません。立入許可、酸欠・感電・墜落リスク、アスベスト、稼働設備との離隔を確認し、危険な場所は専門業者へ調査を依頼します。
地盤・基礎
上部構造の耐震診断では、地盤、液状化、杭、擁壁などが十分に評価されていないことがあります。
特に不動産取得時は、耐震診断とは別に次を確認します。
- 地盤種別
- 液状化リスク
- 杭種・杭長
- 既存杭の健全性
- 地下水位
- 盛土・崖・擁壁
- 地盤沈下履歴
非構造部材・設備
- 吊り天井
- 外壁、タイル、ALC
- ガラス
- 看板
- 間仕切り
- 高置水槽
- 受変電設備
- 非常用発電機
- 配管
- エレベーター
- エキスパンションジョイント
構造体が倒壊しなくても、天井落下や設備停止によって人命・営業継続に重大な影響が出ます。
耐震診断義務と耐震改修義務は同じか
耐震診断義務と耐震改修義務は同じではありません。
| 項目 | 内容 |
| 耐震診断義務 | 対象建物について期限までに診断する |
| 結果報告 | 所管行政庁へ診断結果を報告する |
| 結果公表 | 行政が建物名、位置、診断結果などを公表する |
| 耐震改修 | 所有者には耐震化に向けた努力義務がある |
| 指導・助言 | 行政が必要な対応を促す |
| 指示・命令 | 対象や状況に応じて行政措置が行われる |
| 使用制限 | 診断結果が低いことだけで自動的に発生するものではない |
区分Ⅰ・Ⅱになったからといって、直ちに建物が使用禁止になるわけではありません。
一方、危険性を認識しながら何も対応しなければよいという意味でもありません。
所有者には、建物の維持管理、安全配慮、不法行為責任、工作物責任、契約上の説明責任などが問題となる可能性があります。診断後に必要な対応を検討し、その経緯を記録することが重要です。
所有者は何をすべきか

耐震性能が不足していると分かった場合、直ちに補強工事だけを発注するのではなく、次の順序で整理します。
- 診断内容と適用範囲を確認する
- 図面と現況の整合を確認する
- 未調査部分と仮定条件を洗い出す
- 必要な追加調査を行う
- 補強案を複数作成する
- 概算工事費と工期を比較する
- 営業・テナントへの影響を評価する
- 応急対策と避難計画を見直す
- 行政・金融機関・保険会社と協議する
- 改修、建替え、用途変更、売却を比較する
特に重要なのは、補強工事費だけで判断しないことです。
- 仮移転費
- 休業損失
- 設備移設費
- 原状回復費
- 賃貸面積の減少
- 補強後の市場価値
- 将来の出口価格
まで含めて事業判断する必要があります。
まずは「診断書と現況の差」を記録する
追加調査を構造設計者へ依頼するときも、「何となく気になる」だけでは調査範囲を決めにくくなります。診断書を持って現地を回り、図面との差、増設設備、塞がれた開口、ひび割れ、漏水跡、柱脚の腐食などを、位置が分かる形で整理しておくと協議が進みやすくなります。
この初期確認で持っておきたいのが、次の3種類です。
- レーザー距離計:壁間、開口、天井高さなど、長い寸法の概測
- 5.5mコンベックス:部材断面、段差、細かな隙間、設備との離隔の確認
- 充電式LED作業灯:機械室、EPS・PS、倉庫奥などの暗所確認と写真記録
すでに業務用の計測器を持っている建築技術者が、無理に買い替える必要はありません。一方、不動産取得担当者、発注者側の技術担当者、施設管理者が調査に同行するのであれば、持ち運びやすい小型モデルを調査バッグに常備しておくと便利です。
ここで得た寸法や目視記録は、耐震診断の代替ではありません。異常の有無や耐震性の良否を自分だけで断定せず、再調査すべき場所を構造設計者へ正確に伝えるために使います。この位置付けを守れば、現地確認は専門家の判断を邪魔するものではなく、追加調査の精度を高める情報になります。
機械室や柱脚を確認する段階になって、手元を照らせるライトがないことに気づいた経験はありませんか?
必要な場所に1台ずつ。
暗所調査を止めない3個セット
KTCのAL815Vは、充電式の小型LED作業灯です。マグネットで金属面に固定し、ライトの角度を180°調整できるため、両手を使って写真撮影や寸法確認をしたい場面に向いています。
-
3か所へ分散して常備
調査バッグ・社用車・事務所など、使う場所ごとに置いておけます -
マグネットで両手を空けられる
鉄骨柱や設備架台などに固定し、撮影や測定を進めやすくなります -
照らす方向を調整しやすい
180°の角度調整により、柱脚や設備裏側などへ光を向けられます -
充電式で繰り返し使える
電池交換の手間を抑え、日常の点検道具として運用できます
複数人で調査する会社にも
調査担当者ごとに1台ずつ持たせれば、1本のライトを貸し借りする待ち時間を減らせます。
京都機械工具(KTC)
充電式LED折りたたみライト AL815V 3個セット
※暗所や設備室へ立ち入る際は、照明の有無だけでなく、立入許可、酸欠、感電、墜落などの危険性を事前に確認してください。
耐震補強の代表的な方法
| 補強方法 | 主な効果 | 居ながら工事 | 賃貸面積 | 外観・設備への影響 | 費用・工期の傾向 |
| RC耐震壁増設 | 強度・剛性向上 | 難しい場合あり | 減少しやすい | 開口・動線・設備に影響 | 中~大 |
| 鉄骨ブレース | 強度・靱性向上 | 区画施工しやすい | 一部減少 | 窓・動線に影響 | 中 |
| 柱巻き立て | 柱の強度・靱性向上 | 部分施工可能 | 柱周囲が狭くなる | 仕上げ・設備移設あり | 中 |
| 袖壁増設 | 柱・架構の耐力向上 | 条件次第 | 一部減少 | 開口、避難動線に影響 | 中 |
| 制振装置 | 応答・変形低減 | 条件次第 | 比較的小さい | 取付部・基礎に影響 | 中~大 |
| 免震改修 | 建物への入力低減 | 高難度 | 条件による | 基礎・設備配管に大きな影響 | 大 |
| 構造スリット | 短柱化防止、靱性改善 | 比較的可能 | 小さい | 防水・防火・仕上げに注意 | 小~中 |
| 荷重低減 | 地震力低減 | 比較的可能 | 小さい | 用途・積載物の制限 | 小~中 |
| 屋根軽量化 | 木造・体育館等の地震力低減 | 条件次第 | 影響小 | 防水、断熱を再検討 | 中 |
| 基礎補強 | 基礎・杭の耐力確保 | 難しい | 影響小 | 掘削、地下設備に影響 | 大 |
補強方法は、Is値を上げるだけで選んではいけません。避難安全、防火区画、採光、設備ルート、営業継続、賃貸面積などを意匠・設備設計者と同時に確認します。
売買・賃貸・融資への影響
耐震診断結果が低いことは、不動産価値に直接・間接の影響を与えます。
売買価格
買主は、想定補強費、工事中の休業、賃貸面積減少、将来売却時の流動性を取得価格に反映します。
ただし、Is値が低い建物でも、
- 合理的な補強が可能
- 補助制度が使える
- 空室が多く工事しやすい
- 建替え余地がある
- 土地価値が高い
といった事情があれば、投資機会になることもあります。
賃貸・テナント誘致
ホテル、商業施設、学校、福祉施設、外資系企業などは、耐震性能に独自基準を持つ場合があります。
区分Ⅰ・Ⅱが公表されている建物では、テナント候補から補強計画、避難対策、工事時期について説明を求められる可能性があります。
融資・保険
金融機関はIs値だけでなく、エンジニアリングレポート、PML、遵法性、修繕計画、補強費などを総合評価します。
PMLは、一定の確率で発生する地震による予想最大損失率を示すもので、耐震診断とは目的が異なります。Is値が一定以上でも、設備・内外装被害を含めたPMLが高い場合があります。
保険も、耐震性能、所在地、構造、用途、免震・耐震改修履歴などによって条件が変わる可能性があります。
重要事項説明
旧耐震基準で建てられた建物について、法令上の耐震診断が実施されている場合、その内容は宅地建物取引業法上の重要事項説明の対象となります。国土交通省「マンション耐震化マニュアル」
ただし、重要事項説明は技術デューデリジェンスの代わりではありません。
売買契約では、次の事項も整理します。
- 診断書・判定書の開示
- 診断後の増改築
- 補強履歴
- 行政との協議状況
- 未調査部分
- 表明保証
- 契約不適合責任
- 補強費の負担
- クロージング条件
耐震診断書で確認すべきチェックリスト

建物・資料
- 建物名称、所在地、用途、階数
- 建築年、確認済証、検査済証
- 構造種別、構造形式
- 構造図、計算書、竣工図の有無
- 増築、用途変更、改修履歴
- 図面と現況の整合
診断条件
- 使用した診断基準と年版
- 第1次・第2次・第3次の別
- 診断対象範囲
- 適用したIso
- Z・G・Uなどの補正
- 計算上の仮定条件
- 未調査部分
診断結果
- 全階・全方向のIs値
- q、CT・SD、CTU・SD
- 最低値の階・方向
- 想定する破壊形式
- ピロティ、セットバック、偏心
- 増築部・塔屋の扱い
現地・材料調査
- コンクリートコアの本数・採取位置
- 圧縮強度
- 中性化・鉄筋腐食
- 配筋確認
- 鉄骨部材・溶接・柱脚
- ひび割れ、沈下、変形
- 基礎・杭・地盤の評価範囲
- 過去の地震被害
- 図面と現況が異なる位置の写真・寸法記録
- レーザー距離計とコンベックスの測定値の照合
- 暗所、閉所、高所など未確認範囲と、その理由
妥当性・対策
- 耐震判定委員会の評価書
- 指摘事項への回答
- 補強案
- 補強後の目標性能
- 概算工事費
- 工期、仮移転、休業影響
- 非構造部材・設備の対策
よくある誤解
旧耐震建物はすべて危険である
旧耐震は診断優先度を判断する重要な区分ですが、個別建物の耐震性能を直接示すものではありません。
新耐震建物なら診断不要である
被災履歴、劣化、増改築、施工不良、重要用途への転用があれば、新耐震建物でも確認が必要です。
Is値0.6以上なら絶対安全である
大規模地震に対する倒壊・崩壊の危険性が低いという評価であり、無被害や機能継続を保証するものではありません。
Is値が低ければ直ちに使用禁止になる
診断結果だけで自動的に使用禁止となるわけではありません。ただし、応急対策や補強検討を放置してよいわけでもありません。
公表されていなければ安全である
公表義務の対象外、未診断、別の行政庁所管などの可能性があります。
耐震補強すればすべての地震被害を防げる
天井、外壁、設備、地盤、家具などの被害は別途対策が必要です。
最低値だけ見ればよい
最低値は重要ですが、その発生階、方向、破壊形式、補強可能性まで確認する必要があります。
診断書があれば現地調査は不要である
診断後の劣化や改修、診断時に確認できなかった部分があるため、取得前には現況確認が必要です。
耐震診断と建築基準法適合調査は同じである
耐震診断は地震に対する構造安全性の評価です。増築、用途変更、防火、避難、容積率などを含む遵法性調査とは別です。
関係者の責任分担
| 関係者 | 主な役割 |
| 発注者・所有者 | 資料提供、診断発注、安全・改修判断、行政・利用者への説明 |
| 構造設計者 | 現地調査、診断、仮定条件の明示、限界説明、補強設計 |
| 意匠・設備設計者 | 避難、防火、用途、動線、設備移設、営業影響の確認 |
| 施工者 | 施工前調査、施工計画、補強工事、品質管理、記録作成 |
| 施設管理者 | 日常点検、応急対策、避難訓練、テナント対応、劣化記録 |
| PM・CM | 費用、工程、発注方式、営業影響、責任境界の整理 |
| 仲介者 | 診断実施の確認、重要事項説明、買主・借主への情報提供 |
| 買主・AM | 技術DD、補強費・PML・出口価格を含む投資判断 |
構造設計者が診断結果を提示しても、建物を使い続けるか、補強するか、建て替えるかを決めるのは原則として所有者・事業者です。
一方、設計者は、診断の適用範囲、仮定条件、不確実性、数値だけでは判断できない事項を明確に説明する必要があります。
ケーススタディ
ケース1:Is値が0.3~0.7に分かれるRC造事務所
1階X方向が0.30、上階Y方向が0.65~0.70であれば、平均値ではなく1階X方向を弱点として扱います。
追加確認は、1階の耐震壁、開口、柱断面、短柱、偏心、用途変更履歴です。補強は鉄骨ブレースや耐震壁が候補になります。
売買では、補強費だけでなく、1階店舗・エントランスへの影響を価格に反映します。
ケース2:ピロティ階だけ低い共同住宅
1階駐車場だけIs値が低い場合、典型的な層崩壊リスクを検討します。
柱巻き立て、ブレース、壁増設などが候補ですが、駐車台数、車路、避難動線への影響が大きいため、構造・意匠を一体で検討します。
区分所有建物では、合意形成と費用負担が大きな課題になります。
ケース3:自治体サイトで結果が公表されているホテル
まず、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲだけでなく、診断方法、最小値、補強予定、実施時期を確認します。
区分Ⅱで営業継続中であっても、直ちに違法とは限りません。しかし、不特定多数が利用するため、避難計画、天井・外壁、家具固定、補強スケジュールの説明が重要です。
取得検討時には、ブランド基準、金融機関、運営会社の耐震要求も確認します。
ケース4:診断書が増築後の状況を反映していない
診断時の建物モデルと現況が異なるため、その診断結果を現在の建物にそのまま適用できません。
増築部の重量、接合方法、基礎、エキスパンションジョイントを確認し、必要に応じて再診断します。
初期確認では、レーザー距離計で増築範囲や壁間寸法を概測し、コンベックスで接合部周辺の隙間や細部寸法を確認すると、既存図面との差を整理しやすくなります。暗い倉庫や設備スペースではLED作業灯を併用し、増築境界、柱・梁、設備干渉が同じ写真内で分かるように記録します。ただし、仕上げ内部の接合状態や基礎形式は目視・概測だけでは判断できないため、図面調査、部分撤去、非破壊調査などへ段階的につなげます。
売買契約では「耐震診断書あり」とだけ記載せず、診断対象範囲と増築未反映を明示すべきです。
ケース5:補強すると賃貸面積が減少する既存ビル
室内耐震壁やブレースを増設すると、貸室面積、窓、動線、設備計画に影響します。
外付けフレーム、制振補強、柱補強なども比較し、
- 工事費
- 面積減少による賃料損失
- 工事中の退去・休業
- 補強後の資産価値
- 建替えとの収益差
を事業収支で評価します。
構造的に最も単純な補強案が、不動産事業として最適とは限りません。
まとめ
耐震診断結果は、Is値だけを見て判断するものではありません。
少なくとも次の項目を一体で確認する必要があります。
- 構造種別
- 診断方法と基準年版
- 診断次数
- 階・方向別の結果
- q値、CTU・SD値
- コンクリート強度や劣化
- 増改築履歴
- 仮定条件と未調査部分
- 地盤、基礎、非構造部材
- 補強可能性と事業への影響
自治体の公表結果は、対象建物の耐震性能を知る重要な入口です。しかし、公表されているのは各階・各方向の最小値など、診断書の一部にすぎない場合があります。
所有者や不動産取得担当者は、「区分が何か」で判断を止めてはいけません。
診断書本体と現況を確認し、追加調査、補強方法、概算費用、工期、利用者安全、営業継続、将来売却まで含めて判断することが、耐震診断結果を実務で活かすための重要なポイントです。

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