古い建物や橋梁、鋼製部材の塗膜には、PCBが含まれている可能性があります。
特に改修・解体工事では、塗膜を「古い塗装」とだけ見てしまうと、撤去後にPCB含有が判明し、工事中断・追加調査・処分費増加・発注者責任の問題に発展するおそれがあります。
PCB含有塗膜が判明した場合、通常の塗装撤去や一般的な建設廃棄物処分とは扱いが変わります。
調査、サンプリング、分析、保管、届出、処分、作業管理を含めた対応が必要になり、工程と契約条件に大きく影響します。
既存建物の再生・改修が増えるほど、アスベストだけでなく、PCB含有塗膜のような“見えない有害物質”を事前に読む力が重要になります。
環境省は令和8年5月8日に「ポリ塩化ビフェニル含有塗膜 調査実施要領(第4版)」を公表しており、PCB廃棄物となる塗膜について早急に調査を進めるための要領として位置づけられています。
環境省のガイドライン一覧にも、第4版が掲載されています。


結論|古い塗膜は“ただの塗装”ではない可能性がある

改修・解体工事で見落とされやすいのが、既存塗膜に含まれる有害物質です。
アスベストは建築分野でかなり認知が進みましたが、PCB含有塗膜は、建物・橋梁・鋼製部材の改修実務ではまだ見落とされることがあります。
PCBというと、変圧器やコンデンサー、安定器などの電気機器を思い浮かべる人が多いと思います。
しかし、環境省の要領では、PCBは一部塗料にも可塑剤として添加されていたこと、特に塩化ゴム系塗料に使われ、道路橋等の鋼構造物の塗膜からPCBが検出されていることが示されています。
実務上のポイントは、「塗膜を剥がしてから考える」のでは遅いということです。
塗装更新、鉄部補修、耐震補強、外装改修、設備架台撤去、解体工事などで、古い塗膜を削る・剥がす・切断する作業がある場合、事前にPCB含有の可能性を確認しておく必要があります。
PCB含有塗膜が見つかると、通常の塗膜くずとして処分できず、PCB廃棄物としての保管・届出・処分の検討が必要になります。
低濃度PCB廃棄物については、PCB特措法上の処分期間が令和9年3月31日までとされています。(環境省ポリシーサイト)
まとめ
- 古い塗膜は、単なる劣化塗装ではなくPCB含有リスクを持つ場合がある
- 改修・解体前に確認しないと、工事中断や追加費用につながる
- アスベストと同じく、事前調査を工程・契約に組み込むことが重要
- 発注者側も「施工者任せ」ではなく、調査範囲と費用負担を確認すべき
PCB含有塗膜とは何か

PCBは、ポリ塩化ビフェニルの略称で、人工的につくられた主に油状の化学物質です。
水に溶けにくく、熱で分解しにくく、不燃性や電気絶縁性に優れるため、かつては電気機器の絶縁油、熱媒体、ノンカーボン紙などに使われていました。
現在は製造・輸入が禁止されています。(環境省ポリシーサイト)
塗膜で問題になるのは、PCBが一部の塗料に可塑剤として使われていた点です。
環境省の「ポリ塩化ビフェニル含有塗膜 調査実施要領(第4版)」では、PCBを含有する塗料は塩化ゴム系塗料であり、製造期間は昭和41年、つまり1966年から、通商産業省による製造中止の通達が出された昭和47年、1972年1月までと整理されています。
また、PCB含有塗料のPCB含有率は1%、すなわち10,000mg/kgから10%、100,000mg/kg程度とされています。
さらに、同要領では、使用された可能性のある施設として、鋼製橋梁、洞門、排水機場の鋼構造物、鋼製タンク、水門・鉄管の鋼構造物、船舶などが挙げられています。
対象は建築物だけに限定されず、土木構造物や設備系の鋼構造物まで広がる点が重要です。
建築実務で注意したいのは、古い工場、倉庫、物流施設、公共施設、インフラ系施設には、建物本体以外にも鉄骨階段、外部鉄骨、タンク、配管支持材、機械架台、煙突、歩廊、手すりなど、多数の鋼製部材が存在することです。
これらの部材は、建物台帳や設計図だけでは塗装履歴が追いにくく、改修・撤去の直前までリスクが見えないことがあります。
まとめ
- PCBは、安定性が高く、かつて電気機器や一部塗料に使われた化学物質
- PCB含有塗料は、主に塩化ゴム系塗料として使われた
- 1966年から1974年ごろに建設・塗装された鋼製構造物は確認対象になりやすい
- 建築物だけでなく、橋梁・タンク・水門・設備架台なども注意が必要
なぜ既存建物・橋梁・鉄部塗装で問題になるのか

PCB含有塗膜が問題になる理由は、塗膜が建物や構造物の表面に薄く残っているため、目視だけでは判断できないからです。
見た目には古い塗装でしかなく、色や劣化状況だけでPCBの有無を判定することはできません。
特に注意すべきなのは、改修・解体工事では塗膜を壊す作業が発生することです。
ケレン、ブラスト、切断、溶接、部材撤去、解体重機による破砕などが行われると、塗膜くずや粉じんが発生します。
PCBを含む塗膜だった場合、作業者のばく露、周辺環境への飛散、廃棄物の分別不備、処分先の受入不可といった問題につながります。
橋梁分野では、鋼橋の塗装塗替え工において、PCBや鉛等の有害物質を含む塗膜への対応が重要なテーマとして扱われてきました。
国交省中部地方整備局の資料でも、鋼橋の塗装塗替え工は橋梁維持修繕の中で大きな費用を要する工種であり、有害物質を含む塗装塗替えへの対応が課題として示されています。(国土交通省CBRデータベース)
建築分野でも構図は同じです。
既存建物を壊さずに使う、躯体を再利用する、外装や設備を更新する、LCCO2を抑えるために再生建築を進める。
こうした流れが強まるほど、既存躯体や既存仕上げに含まれるリスクを読む力が求められます。
つまり、PCB含有塗膜は「解体時だけの問題」ではありません。
再生建築、長寿命化改修、耐震補強、設備更新、外装更新、工場改修、物流施設の用途変更など、既存建物に手を入れるあらゆる場面で確認すべきリスクです。
まとめ
- PCB含有塗膜は、目視だけでは判断できない
- ケレン・切断・解体で塗膜くずや粉じんが発生する
- 橋梁だけでなく、建築物の鉄部改修でも同じリスクがある
- 再生建築や躯体再利用の時代ほど、既存仕上げの有害物質確認が重要になる
改修・解体前にどのような調査が必要か

PCB含有塗膜の調査は、いきなり分析から始めるのではなく、まず「対象になり得るか」を整理することが重要です。
環境省の第4版要領では、昭和41年から昭和49年の期間に建設または塗装の塗り替えが行われた鋼製構造物で、屋外に設置されているものを調査対象施設等として整理しています。
対象例として、道路橋、鉄道橋、洞門、排水機場、ダム、水門、タンクなどが挙げられています。
建築実務では、まず竣工年、増改築年、塗装改修履歴、仕様書、竣工図、修繕記録、施設管理台帳、過去の工事写真を確認します。
工場や倉庫では、建物本体よりも設備架台や外部階段、配管支持材、タンク、歩廊などのほうが古い場合もあります。建物竣工年だけで対象外と判断しないことが重要です。
次に、対象部位を現地確認します。塗膜が残っているか、上塗り更新されているか、下地まで撤去する工事か、既存塗膜を削る作業があるかを確認します。既存塗膜の上に何度も塗り重ねられている場合、表面塗膜だけではなく、下層塗膜にPCBが含まれている可能性も考慮します。
必要に応じて、専門業者によるサンプリングと分析を行います。サンプリングは、作業者の安全、周辺への飛散防止、採取位置の代表性、補修方法を含めて計画する必要があります。分析結果が出るまでは、通常撤去を前提に工程を固めすぎないことも大切です。
まとめ
- 竣工年・塗装履歴・仕様書・修繕記録を確認する
- 建物本体だけでなく、外部階段・架台・タンク・配管支持材も見る
- 塗り重ねられた下層塗膜にも注意する
- サンプリングと分析は、工程・安全・補修を含めて計画する
PCB含有塗膜が問題になりやすい部位と確認事項
| 部位 | 確認すべき理由 | 調査方法の例 | 見つかった場合の影響 | 発注者が確認すべきこと |
|---|---|---|---|---|
| 鋼橋 | PCB含有塗膜の検出事例がある代表的な鋼構造物 | 竣工年・塗装履歴確認、塗膜サンプリング、分析 | 塗替え工法、養生、廃棄物処理費が大きく変わる | 調査済みか、処分計画があるか |
| 鉄骨階段 | 古い外部鉄部として残りやすい | 竣工図、現地確認、塗膜採取 | 撤去・更新時に通常解体できない可能性 | 改修範囲に含まれるか |
| 外部鉄骨 | 屋外で塩化ゴム系塗料が使われた可能性 | 塗装仕様書、補修履歴、分析 | ケレン・溶接・切断作業の管理が必要 | 既存塗膜撤去の有無 |
| 鋼製タンク | 環境省要領でも可能性がある施設として整理 | 設置年、消防・高圧ガス関係資料、分析 | 内容物管理、タンク撤去、処分計画に影響 | 所有者・管理者責任の範囲 |
| 工場設備 | 建物より古い設備が残ることがある | 設備台帳、銘板、塗装履歴確認 | 設備撤去工事の中断、分別保管 | 建築工事と設備撤去の責任分界 |
| 古い外部塗装 | 下層に古い塗膜が残る可能性 | 層別サンプリング、過去改修記録確認 | 外装改修費、養生計画に影響 | 下地処理方法と調査範囲 |
| 地下構造物 | 一般要領の主対象とは異なるが、古い防食塗装に注意 | 図面、仕様書、現地確認 | 撤去・切断時の分別判断が必要 | 対象外とする根拠の確認 |
| 機械架台 | 古い工場・倉庫で残置されやすい | 設備台帳、現地マーキング、分析 | 設備撤去と建築解体の工程がずれる | 工事区分と調査費負担 |
| 煙突・配管支持材 | 高所・狭所でサンプリングしにくい | 高所調査、写真記録、部分採取 | 足場・養生・撤去手順に影響 | 調査時期を早めること |
PCB含有塗膜が見つかった場合の実務リスク

PCB含有塗膜が見つかった場合、最初に影響するのは工程です。通常の塗装撤去、鉄骨撤去、解体工事として予定していた作業をそのまま進めることが難しくなります。
分析結果の確認、関係者協議、作業方法の見直し、養生計画、廃棄物の保管場所、処分先の確認が必要になるため、着工直前に判明すると工程遅延のリスクが高まります。
次に影響するのが費用です。追加調査費、分析費、専門業者費、飛散防止養生、作業環境管理、分別保管、収集運搬、処分費が発生します。
特に既存建物改修では、当初見積にPCB含有塗膜を想定していないケースが多く、変更契約や追加費用の扱いが問題になりやすいです。
さらに、保管・届出・処分の責任も整理が必要です。
PCB廃棄物はPCB特措法に基づき、保管事業者に処分期間内の処分等が義務付けられています。環境省は、低濃度PCB廃棄物について令和9年3月までの処分を義務付けて処理を進めてきたと説明しています。(環境省)
実務上は、発注者、建物所有者、施工者、解体業者、廃棄物処理業者の間で、
「誰が保管事業者になるのか」
「どこに一時保管するのか」
「処分費は契約に含むのか」
「調査で判明した場合の変更条件はどうするのか」
を事前に整理しておく必要があります。
近隣説明にも影響します。PCBという言葉は不安を招きやすいため、発見後に慌てて説明するより、事前調査を行い、適切に管理・処分する方針を示すほうが、発注者としての信頼を保ちやすくなります。
まとめ
- PCB含有塗膜が見つかると、工程・費用・契約に大きく影響する
- 追加調査、養生、保管、処分費が発生する可能性がある
- 保管事業者、処分責任、変更契約の扱いを事前に整理する
- 近隣説明では、不安を煽らず、適正管理の方針を示すことが重要
発注者・設計者・施工者が確認すべきこと

発注者側がまず確認すべきなのは、調査のタイミングです。
PCB含有塗膜の調査は、見積後や着工後ではなく、基本計画から実施設計、解体・改修工事の発注前に組み込むべきです。
特に古い工場、倉庫、公共施設、橋梁、タンク、外部鉄骨がある案件では、アスベスト調査と並行して、有害物質調査の範囲にPCB含有塗膜を含めるかを検討します。
設計者・PMは、工事範囲と既存塗膜への干渉を整理する必要があります。
塗膜を残したまま上塗りするのか、下地まで除去するのか、鉄部を切断撤去するのか、ブラストやディスクグラインダーを使うのかで、必要な調査と作業管理が変わります。
施工者・解体業者は、作業前に既存調査結果を確認し、未調査部位を勝手に削らない運用が重要です。
現場で「少しだけ削って確認する」という行為が、粉じん飛散や廃棄物混入につながる場合があります。
疑わしい部位は、マーキングし、発注者・監理者と協議してから対応する流れをつくるべきです。
契約面では、調査済み範囲、未調査範囲、追加調査が必要になった場合の費用、PCB含有が判明した場合の工期延長、処分費の扱いを明記しておくことが重要です。
既存建物改修では「見えないリスク」をゼロにすることはできませんが、契約前にリスク分担を決めておくことで、発見後の混乱を減らせます。
このように、既存建物、有害物質、廃棄物処理、改修計画、発注者責任を横断して理解できる技術者は、再生建築・PM・デベロッパー・発注者側で価値が高まっています。
単に図面が読めるだけでなく、既存建物に潜むリスクを事業工程に落とし込める人材が求められる時代になっていると感じます。
まとめ
- 調査は着工後ではなく、発注前に組み込む
- 塗膜を削る・剥がす・切る作業の有無を整理する
- 未調査部位を現場判断で削らない運用が重要
- 契約前に、追加調査・処分費・工期延長の扱いを決める
PCB含有塗膜調査チェックリスト

PCB含有塗膜の調査では、以下のような観点を事前に確認しておくと、発注者・設計者・施工者の認識をそろえやすくなります。
基本情報の確認
- 建物・構造物の竣工年を確認したか
- 増築・改修・塗装更新の履歴を確認したか
- 昭和41年から昭和49年ごろの建設・塗装部位が残っていないか
- 建物本体以外の外部鉄部、設備架台、タンク、配管支持材を確認したか
- 図面、仕様書、施設台帳、過去工事写真を確認したか
工事内容との関係
- 既存塗膜を削る、剥がす、切断する作業があるか
- 上塗り改修なのか、下地処理を伴う改修なのか
- 解体範囲に古い鋼製部材が含まれるか
- 設備撤去と建築解体の工事区分が整理されているか
- 足場や養生が必要な調査部位があるか
調査・分析
- 調査範囲を図面上で明確にしたか
- サンプリング位置の代表性を検討したか
- 塗り重ねられた下層塗膜を考慮したか
- 分析結果が出るまで通常撤去を始めない工程になっているか
- 調査結果を発注図書や見積条件に反映したか
発見後の対応
- PCB含有が判明した場合の連絡ルートを決めているか
- 保管場所、保管方法、表示、飛散防止を検討しているか
- 管轄自治体への相談・届出の要否を確認する体制があるか
- 収集運搬・処分先の候補を確認しているか
- 追加費用・工期延長・契約変更の扱いを決めているか
発注者側の確認
- 調査費用を予算化しているか
- 未調査リスクを契約条件に明記しているか
- 近隣説明が必要な場合の説明方針を整理しているか
- アスベスト、鉛、PCBなどを一体で有害物質調査として扱っているか
- 再生建築・躯体再利用の判断に、有害物質リスクを織り込んでいるか
まとめ
PCB含有塗膜は、古い建物や橋梁、鋼製部材の改修・解体で見落とせないリスクです。
見た目には単なる塗装でも、古い塩化ゴム系塗料にPCBが含まれている可能性があり、撤去・切断・ケレン作業によって塗膜くずや粉じんが発生すると、通常の建設廃棄物とは異なる対応が必要になります。
環境省が令和8年5月8日に公表した「ポリ塩化ビフェニル含有塗膜 調査実施要領(第4版)」は、PCB廃棄物となる塗膜への早急な対応を進めるための実務上重要な資料です。
第4版では、PCB含有塗料の使用時期、対象となり得る鋼製構造物、調査対象施設等の考え方が整理されています。
建築実務で大切なのは、PCB含有塗膜を化学物質の知識だけで終わらせないことです。
実際には、調査時期、工事範囲、塗膜撤去方法、廃棄物処理、保管、近隣説明、追加費用、契約変更、工期遅延に直結します。
再生建築や躯体再利用、LCCO2削減の観点から既存建物を活用する流れは、今後さらに強まります。
しかし、既存建物を使うということは、既存躯体や既存仕上げに残されたリスクも引き受けるということです。
アスベスト、PCB含有塗膜、鉛、廃棄物処理、法適合、構造安全性を総合的に見て、事業判断に落とし込む力が求められます。
建築技術ノートでは、アスベスト関連記事、建設廃棄物・資源循環記事、再生建築記事、躯体再利用記事、既存建物改修記事、LCCO2評価制度記事とも関連づけて、既存建物を安全に、合理的に、そして長く使うための実務知識として整理していきたいと思います。
まとめ
- PCB含有塗膜は、改修・解体前に確認すべき有害物質リスク
- 対象は橋梁だけでなく、建築物の外部鉄部や設備架台にも広がる
- 発見後は、工程・費用・処分・契約・近隣説明に影響する
- 再生建築の時代には、既存建物に潜む“見えないリスク”を読む力が重要

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