マンション漏水は誰の責任か?最高裁判決で変わる管理・設計のリスク構造【2026年最新】

マンションの漏水事故は、建築実務のなかでも特にトラブルが大きくなりやすいテーマです。
なぜなら、単に「水が漏れた」という話ではなく、専有部と共用部の境界、施工不良か経年劣化か、管理組合と区分所有者のどちらが責任主体かが複雑に絡むからです。

2026年1月22日、最高裁が実務の判断に影響の大きい見解を示しました。(courts.go.jp)
共用部分の瑕疵により専有部へ漏水損害が生じた事案について、区分所有者の団体は、特段の事情がない限り、民法717条1項本文の「占有者」に当たると判断したのです。
これは、マンション漏水をめぐる責任論において、まず誰が前面に立つべきかを整理した判決といえます。
以下では、この判決の意味を実務・法規・リスクの3つの視点から整理します。

なお、こうした判決や制度変更を見ていると、建築技術者の価値は「設計できること」だけでなく、
リスクを読み、将来の立場を選べることにも広がっていると感じます。
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目次

なぜマンションの漏水トラブルはここまで複雑なのか

2026年1月22日の最高裁判決は、マンションの共用部分が原因で漏水したら、まず管理組合が責任を負う立場になりやすいと示したものです。
今回の事案では、ある部屋で何度も漏水が起き、その原因が外壁や床スラブのひび割れなど、共用部分にあるとされました。
最高裁は、「共用部分を日常的に管理し、安全に保つ役割を持つのは管理組合側だ」と考えました。
そのため、管理組合は民法717条の“占有者”に当たると判断しました。
要するにこの判決は、漏水トラブルで最初に前に出るべき相手は誰かをはっきりさせた判決です。

漏水トラブルが難しい最大の理由は、原因の部位と責任主体が一致しないことが多いからです。
例えば、居室の天井や壁にシミが出ているとしても、原因はその部屋の内部配管とは限りません。
外壁躯体の亀裂、床下スラブ、防水層、共用竪管、サッシ周り、上階専有部の設備配管など、実際には複数候補が並びます。
しかも、見えている被害箇所は専有部でも、原因部位は共用部ということが珍しくありません。
今回の最高裁事案も、漏水の原因が、外壁コンクリート躯体部分及び床下スラブ部分の亀裂等にあったと認定され、それらは共用部分に当たると整理されています。

ここで実務をさらに難しくするのが、マンションの管理構造です。
最高裁は、区分所有法3条前段、18条1項、19条を踏まえ、区分所有建物の共用部分については、基本的に区分所有者の団体が支配管理して安全性を確保していくことが予定されていると述べました。

つまり、マンションでは「誰のものか」だけではなく、「誰が継続的に安全性を維持すべき立場か」が重視されます。
このため、漏水事故では、単純に専有部・共用部の図面区分を見るだけでは不十分で、日常管理、修繕権限、費用負担、立入権限、記録の有無まで含めて実務判断が必要になります。

まとめ

  • 被害箇所が専有部でも、原因部位は共用部であることが多い。
  • 最高裁は、共用部分の安全性確保を区分所有者の団体の基本的役割として捉えた。
  • 漏水実務では、図面上の区分だけでなく、管理権限と維持責任の整理が重要になる。
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最高裁判決のポイントは何か――「責任の入口」が明確になった

今回の最高裁判決の核心は、共用部分の瑕疵による損害について、管理組合が民法717条1項本文の「占有者」に当たり得ると示した点です。
原審はこれを否定していましたが、最高裁はこれを破棄しました。
判決は、民法717条1項本文の趣旨を、「通常有すべき安全性を欠く状態にある工作物を支配管理して、損害発生を防止すべき地位にある者に責任を負わせること」と整理しています。
そのうえで、区分所有法の仕組みに照らし、共用部分は基本的に区分所有者の団体が支配管理して安全性を確保していくものだと述べました。
このロジックは非常に重要です。
責任判断の軸が、単なる所有名義ではなく、支配管理と安全確保の地位に置かれたからです。

さらに最高裁は、区分所有者の団体が共用部分管理のための費用を徴収しているのが通例であり、共用部分の瑕疵による損害は、その団体の財産から賠償することが区分所有者の通常の意思に沿い、被害者保護にも資すると述べています。
そして、特段の事情がない限り、区分所有者の団体は共用部分について民法717条1項本文の「占有者」に当たると明言しました。
もっとも、この判決は「最終的な負担者」を完全に確定したものではありません。
最高裁は損害額等についてさらに審理を尽くさせるため差し戻しており、施工不良や設計不備があれば、その先の求償や責任分担は別途問題になります。
要するに、今回明確になったのは、責任の出口ではなく入口です。

まとめ

  • 最高裁は、管理組合が共用部分について民法717条1項本文の「占有者」に当たり得ると判断した。
  • 判断軸は「所有名義」よりも「支配管理し、安全性を確保すべき地位」にある。
  • 判決が明確化したのは、最終責任ではなく、まず誰が前面に立つかという初動責任の整理である。
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管理組合・管理会社の実務はどう変わるのか

この判決で最も大きな影響を受けるのは、実は施工会社よりも、まず管理組合と管理会社の初動実務です。
これまでは、漏水が起きても「専有部の話かもしれない」「原因調査をしてから責任を決めたい」として、対応が長引くケースが少なくありませんでした。
しかし今後は、共用部起因が疑われる場面で、管理組合が責任主体たり得ることがより明確になった以上、調査の遅れや修繕判断の先送り自体がリスクになります。
放置によって被害が拡大すれば、損害額の拡大だけでなく、管理の不適切さも問われやすくなります。

この流れと整合するように、国土交通省は令和7年マンション標準管理規約を改正しました。
同省は、2025年改正区分所有法等を踏まえて、2025年10月17日に標準管理規約を改正したと公表しています。
改正概要では、共用部分の管理に伴って必要となる専有部分の保存行為等を§21で整理し、専有部分の保存行為実施の請求を§23で明確化しています。
さらに、共用部分等に係る損害賠償請求権等の代理行使を§24の2として新設し、理事長が区分所有者等の損害賠償請求権等を代理行使できることも示されました。
これは、漏水のような共用部起因トラブルにおいて、管理組合が「調査するだけの存在」ではなく、権限と責任を持って動く主体へと制度的にも寄せられていることを意味します。 (mlit.go.jp)

まとめ

  • 今後は、原因未確定を理由にした対応の先送りがしにくくなる。
  • 令和7年改正標準管理規約では、専有部分への保存行為請求や共用部管理に伴う保存行為が明確化された。
  • 管理組合と管理会社には、調査・修繕・法的整理を一体で動かす実務力がより求められる。

設計者・施工者・デベロッパーにとっての本当のリスク

一見すると、この判決は管理組合側の話に見えます。
しかし、建築実務者にとって本当に重いのは、その先です。
なぜなら、管理組合が初動責任を負う構造が明確になるほど、次に管理組合が行うのは、原因の遡及だからです。
漏水原因が共用部にあったとしても、その背景が施工不良なのか、設計上の納まり不足なのか、長期修繕の未実施なのかで、最終的な負担の流れは変わります。
つまり、管理組合が前に出ることで、逆に施工者・設計者・分譲側への責任追及ルートが整理されやすくなる面があります。
今回の最高裁判決も、損害額等を差し戻している以上、責任論がそこで完結したわけではありません。

この意味で、設計・施工実務で重要になるのは3つです。
第一に、漏水しにくいディテールです。
外壁打継ぎ、サッシ周り、屋上・バルコニー防水、竪管更新時のアクセス性など、よくある漏水ポイントを「納まり」と「維持管理性」で潰しておくこと。
第二に、説明可能性です。
なぜその仕様にしたか、どのような維持管理を前提にしたかを残しておかないと、後年の紛争で非常に弱くなります。
第三に、記録です。
設計意図書、施工写真、検査記録、是正履歴、引渡説明資料は、漏水紛争時にはそのまま防御資料になります。
これから評価されるのは「壊れない設計」だけではなく、トラブルになったときに説明できる設計と施工です。これは、マンションの商品企画にも直結する視点です。

まとめ

  • 判決の影響は管理組合だけでなく、設計者・施工者・分譲側にも及ぶ。
  • 初動責任が明確になるほど、その後の原因遡及も進みやすくなる。
  • 防水ディテール、維持管理性、説明資料、施工記録の価値がこれまで以上に高まる。
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今後のマンション市場はどう変わるのか

この判決の長期的な意味は、単なる損害賠償論にとどまりません。
むしろ大きいのは、管理の質が資産価値に直結する流れをさらに強めることです。
国土交通省も、令和7年改正標準管理規約の見直しを、改正区分所有法を踏まえた管理組合運営の重要課題として位置付けています。
今後は、管理規約が古いまま、調査権限や保存行為、損害賠償請求権の扱いが曖昧なマンションほど、漏水等のトラブル時に初動が遅れやすくなります。
逆に、規約整備、修繕積立金、調査体制、理事会の意思決定、専門家活用がきちんとしているマンションは、事故発生後の被害抑制でも中古評価でも有利になりやすいです。

建築実務の目線で言えば、ここから先は「建てて終わり」の時代ではありません。
分譲時の設計、引渡時の説明、管理規約との整合、長期修繕との接続まで含めて、維持できる建築が問われます。
漏水事故はゼロにできなくても、トラブルの深刻化は減らせます。
その差を生むのは、法規を知っていることだけではなく、管理と設計をつなげて考えられるかどうかです。
今回の最高裁判決は、まさにそのことを示しています。
これからの建築技術者は、「壊れない設計者」よりも、トラブルが起きても社会的コストを小さくできる設計者が評価される時代に入ったといえそうです。

まとめ

  • 管理規約、修繕体制、理事会の動き方が、資産価値に直結しやすくなる。
  • 漏水リスクは、建物そのものだけでなく、管理能力の差としても表れやすい。
  • 今後のマンション市場では、設計・管理・修繕をつなぐ視点がより重要になる。
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結論

今回の最高裁判決は、マンション漏水の責任論を一段進めました。
ポイントはシンプルです。
共用部分に起因する漏水では、まず管理組合が責任主体として問題の前面に立つ
ただし、それで話が終わるわけではなく、原因が設計や施工、仕様選定、修繕不備にあるなら、その責任はその先に遡っていきます。

実務で大事なのは、判決を「誰が悪いか」の話だけで終わらせないことです。
管理組合は初動を、管理会社は技術判断を、設計者と施工者は説明可能性を、デベロッパーは長期運用を前提にした商品設計を、それぞれ見直す必要があります。
漏水事故は今後もなくなりません。
だからこそ価値が出るのは、トラブルを小さく収める設計と管理です。
この判決は、マンションのリスク構造が「建てる責任」から「維持し、説明し、動ける責任」へ広がったことを示すものだといえます。

最終まとめ

  • 最高裁は、共用部分について管理組合が民法717条1項本文の「占有者」に当たり得ると判断した。
  • これにより、漏水トラブルの初動責任は管理組合側へより明確に寄る。
  • その後の責任は、設計・施工・修繕の実態に応じて遡及し得る。
  • 令和7年改正標準管理規約は、この流れに沿って、専有部保存行為や損害賠償請求権の代理行使を整理している。
  • これからは、法規を知るだけでなく、管理・設計・修繕を一体で考える建築技術者が強い。
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