令和8年(2026年)一級建築士試験「設計製図の試験」の課題は、「ホテル」と発表されました。
ホテルは、客室を効率よく並べるだけでは成立しません。
宿泊者は建物に不案内であり、就寝中に火災が発生すれば、火災の覚知や避難開始が遅れる可能性があります。
そのため、事務所や庁舎などの課題以上に、直通階段、避難経路、防火区画、廊下、バリアフリー、セキュリティなどが建物の骨格を左右します。
さらに令和8年課題では、次の留意事項が公表されています。
- 敷地の周辺環境や既存建築物の現状保存への配慮
- バリアフリー、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、セキュリティへの配慮
- 適切なゾーニングと明快な動線計画
- 構造安全性と経済性
- 架構形式、スパン割り、部材断面の適切な計画
- 空調、給排水、電気、昇降機設備の適切な計画
試験元は、関係法令や設計与条件に対する不適合・不十分な解答について、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」等と判断する場合があると明記しています。
つまり、ホテル課題では「法規を最後に確認する」のではなく、法規によって最初に建物の骨格をつくることが重要です。
本記事では、ホテルに関係する法令を網羅的に説明するのではなく、一級建築士製図試験において、どの法規が配置図・平面図・断面図・面積表にどう影響するのかを実務目線で整理します。
※本記事は2026年7月31日時点の情報をもとにしています。本試験では、必ず問題文に示される設計条件を優先してください。

令和8年一級建築士製図試験の課題は「ホテル」

令和8年7月24日、建築技術教育普及センターから、設計製図試験の課題が公表されました。
課題名
ホテル
要求図書
- 1階平面図・配置図:縮尺1/200
- 試験問題で指定される各階平面図:縮尺1/200
- 断面図:縮尺1/200
- 面積表
- 計画の要点等
試験日は、令和8年10月11日です。
課題名以外に具体的な敷地、階数、構造、延べ面積、客室数、併設用途などは公表されていません。しかし、「既存建築物の現状保存」への配慮が明示されている点は、今年の大きな特徴です。
想定される出題形式としては、次のようなものが考えられます。
- 都市型ビジネスホテル
- 観光地や景勝地に建つホテル
- レストランや宴会場を併設したホテル
- 地域交流施設を備えたホテル
- 歴史的建築物を保存・活用するホテル
- 既存建築物にホテル棟を増築する計画
- 公園や文化施設と連携するホテル
- 低層部を地域に開放した複合型ホテル
ただし、現時点でこれらの用途や構成が確定しているわけではありません。
課題名から出題内容を断定するのではなく、どのようなホテルが出題されても対応できる計画の骨格を準備することが大切です。
公式発表の詳細は、建築技術教育普及センター「令和8年設計製図の課題」で確認できます。
ホテルはなぜ法規上の注意点が多いのか

ホテルは、建築基準法上の特殊建築物です。
また、消防法上は原則として、消防法施行令別表第一の(5)項イ「旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」に該当します。
法規上の特徴は、主に次の3点にあります。
不特定多数の人が利用する
ホテルの宿泊者は、建物の間取りや避難経路を事前に把握していません。
日常的に利用する事務所であれば、在館者が階段や出入口の位置を理解しています。一方、ホテルでは、初めて訪れた利用者が夜間や停電時にも避難できる計画が求められます。
就寝中の火災を想定する必要がある
火災が発生しても、宿泊者がすぐに気付くとは限りません。
そのため、ホテルでは、火災の早期覚知、煙の拡散防止、避難経路の明快さなどが特に重要になります。
複数の利用者と動線が混在する
ホテル内には、宿泊者だけでなく、レストランや宴会場を利用する一般来館者、従業員、清掃員、納品業者などが出入りします。
したがって、次の動線を整理しなければなりません。
- 宿泊者動線
- 一般来館者動線
- 従業員動線
- 搬入・サービス動線
- 避難動線
製図試験では、法定寸法を満たすだけでなく、利用者が迷わず、安全に行動できる平面構成になっているかが重要です。
ホテル課題で確認すべき法規一覧

ホテル設計に関係する代表的な法規を、答案への影響とあわせて整理すると、次のようになります。
| 法規・検討項目 | 計画への主な影響 | 主に確認する図面 |
|---|---|---|
| 用途地域 | ホテルを建築できる地域か | 配置図・設計条件 |
| 建蔽率・容積率 | 建築面積・延べ面積の上限 | 配置図・面積表 |
| 接道・道路斜線 | 建物配置、車寄せ、高さ | 配置図・断面図 |
| 隣地斜線・北側斜線 | 建物位置、階数、上部形状 | 配置図・断面図 |
| 日影規制 | 建物高さや配置 | 配置図・断面図 |
| 耐火・準耐火要求 | 構造、防火区画、開口部 | 平面図・断面図 |
| 直通階段 | 階段の数と位置 | 各階平面図 |
| 歩行距離 | 客室から階段までの経路 | 客室階平面図 |
| 重複距離 | 二方向避難の実効性 | 客室階平面図 |
| 廊下幅 | 客室配置、避難経路 | 客室階平面図 |
| 防火区画 | 面積区画、竪穴区画等 | 平面図・断面図 |
| 排煙 | 無窓空間、廊下、共用部 | 平面図・断面図 |
| 内装制限 | 廊下、階段、火気使用室 | 計画の要点等 |
| バリアフリー | 駐車場、玄関、EV、客室 | 配置図・各階平面図 |
| 消防設備 | PS、設備室、非常電源 | 平面図・設備計画 |
| 旅館業法・条例 | 客室、衛生、管理運営 | 平面計画全般 |
| 建築基準条例 | 廊下、階段、敷地内通路等 | 配置図・平面図 |
| 景観・保存関係 | 外観、配置、既存建築物 | 配置図・断面図 |
製図試験では、すべての条文を答案上で説明する必要はありません。
重要なのは、法規を次の3段階に分けて考えることです。
- 建物の骨格を決める法規
- 寸法や配置を決める法規
- 図面・記述で配慮を示す法規
特に直通階段、防火区画、バリアフリールートは、後から修正することが難しいため、エスキスの初期段階で決める必要があります。
ホテル課題の最優先事項は直通階段と二方向避難

ホテル課題で最も注意したいのが、客室階の階段計画です。
建築基準法施行令第121条では、建築物の用途、階数、居室の床面積などに応じて、2以上の直通階段が求められます。
ただし、実際の適用条件は、階数、床面積、主要構造部の性能、避難階との関係などによって変わります。そのため、製図試験では、問題文に示される条件を確認したうえで判断しなければなりません。
まず階段を置き、その後に客室を配置する
ホテル課題で失敗しやすいのは、客室数を確保してから階段を追加しようとすることです。
客室を先に並べると、次の問題が起こりやすくなります。
- 階段同士が近接する
- 最遠客室からの歩行距離が長くなる
- 行き止まり廊下が発生する
- 1つの火災で2つの避難経路が同時に使えなくなる
- 1階で階段の出口を確保できない
- ロビーやレストランと階段出口が干渉する
エスキスでは、最初に次のコアを仮置きします。
- 直通階段
- エレベーター
- PS・DS
- 客室廊下
- バックヤード用の縦動線
その後、コアの周囲に客室や共用施設を配置する方が、法規的にも構造的にも安定します。
2つの階段は適切に離す
2以上の直通階段を設けても、階段同士が隣接していては、火災時に同時に使用できなくなる可能性があります。
客室階では、原則として次のような配置を考えます。
- 客室廊下の両端に階段を設ける
- 主階段と避難階段を離して配置する
- 建物の対角方向に分散する
- それぞれ異なる方向へ避難できるようにする
単に「階段が2つある」だけではなく、1つの経路が使えなくても、もう一方へ逃げられるかを確認してください。
避難階での出口まで確認する
客室階で階段が成立していても、1階で避難経路が途切れていては意味がありません。
次のような計画は注意が必要です。
- 階段から屋外へ出るまで厨房を通る
- 宴会場内を横断しなければ避難できない
- 従業員専用区域を通過する
- 施錠管理される扉を通る
- 階段出口前に家具や受付カウンターがある
階段は、客室階から1階まで線をつなぐだけでなく、最終的に安全な屋外へ到達できるかまで確認します。
歩行距離は「最遠客室の奥」から確認する

歩行距離のチェックでは、客室の出入口から階段までを測るだけでは不十分です。
原則として、居室内の最も不利な位置から、実際に歩く経路に沿って直通階段まで確認します。
よくある誤り
- 客室扉から階段までしか測っていない
- 廊下上の距離を直線で測っている
- 壁や柱を斜めに通過して測っている
- 前室や防火戸を考慮していない
- 屋外階段に出る扉まで確認していない
- 最遠客室ではなく、廊下端部から測っている
客室内では、ベッドやユニットバスの配置によっても実際の避難経路が変わります。
製図試験では、厳密な什器間の移動距離まで計算する必要はありませんが、少なくとも客室の奥から廊下に出て、階段の入口に至る経路として確認する必要があります。
重複距離にも注意する
二方向避難が成立しているように見えても、途中まで同じ廊下を通らなければならない場合、その区間は重複部分になります。
例えば、T字型廊下の先端に客室があり、分岐後に2つの階段へ向かえる計画でも、客室から分岐点までの経路は共通です。
この共通部分が長いと、火災によって両方の避難経路が同時に遮断される可能性があります。
チェックするときは、次の2本の線を色分けすると分かりやすくなります。
- 最遠客室から第1階段までの経路
- 最遠客室から第2階段までの経路
2本の線がどこまで重なっているかを確認することで、二方向避難の実効性を判断できます。
客室階の廊下幅と行き止まりに注意する

ホテルの客室階では、中央廊下の両側に客室を配置する「中廊下型」がよく使われます。
中廊下型は、外周部に多くの客室を確保できる一方で、避難上の問題も生じやすい形式です。
中廊下型の注意点
- 廊下が長くなりやすい
- 行き止まりが生じやすい
- 宿泊者が方向を判断しにくい
- 自然採光や自然換気を確保しにくい
- 客室扉から煙が流入すると廊下全体に影響する
- 客室扉、PS、柱型によって有効幅員が不足しやすい
建築基準法施行令第119条では、ホテルの用途に供する階で、居室の床面積の合計が一定規模を超える場合、廊下幅について代表的には次の基準が関係します。
| 廊下の形式 | 必要となる幅員の代表値 |
|---|---|
| 両側に居室がある廊下 | 1.6m以上 |
| その他の廊下 | 1.2m以上 |
ただし、適用の有無は、当該階の居室床面積、地階かどうか、用途などによって判断します。本試験で廊下幅が指定された場合は、その指定寸法が最優先です。
図面では「有効幅員」を意識する
通り芯間寸法や壁芯間寸法が1.6mあっても、実際の有効幅員が1.6m確保されているとは限りません。
次の部分に注意してください。
- 独立柱や柱型
- PS・DSの出っ張り
- 客室扉の開放軌跡
- 防火戸の戸袋
- 消火栓や設備ボックス
- 清掃ワゴン置場
- 家具や案内サイン
製図試験では、過剰に細かい設備表現は不要ですが、柱型を廊下側へ大きく突出させる計画は避けた方が安全です。
防火区画は平面図と断面図をセットで考える

ホテルで検討する主な防火区画には、次のものがあります。
- 面積区画
- 竪穴区画
- 異種用途区画
- 高層区画
- 吹抜け・アトリウム周辺の区画
- 特定防火設備等による区画
このうち、製図試験で特に重要なのが竪穴区画です。
煙と火を上下階へ広げる部分
次の部分は、複数階を縦につなぐため、煙や火災が上階へ拡大する経路になり得ます。
- 階段
- エレベーターシャフト
- 吹抜け
- エスカレーター
- PS・DS
- ダクトスペース
これらを平面図上だけで考えると、上下階のつながりを見落としやすくなります。
平面図で確認すること
- 階段を区画できる壁配置になっているか
- 防火戸を設置できる位置があるか
- エレベーターホールと客室廊下の関係は明快か
- PS・DSを客室内に無理に配置していないか
- 防火戸の開閉が他の扉や家具と干渉しないか
- 吹抜けが客室階へ無計画に連続していないか
断面図で確認すること
- 吹抜けがどの階まで連続するか
- 階段が上下階で整合しているか
- PS・DSがどの階を貫通するか
- 客室と低層部の大空間の関係
- 屋根や床による区画の連続性
- 既存建築物と増築部分の接続関係
ホテル課題では、ロビーに開放的な吹抜けを設けたくなります。しかし、吹抜けを設けると、防火区画、排煙、空調負荷、構造計画などが複雑になります。
吹抜けは、「見栄えがよいから設ける」のではなく、空間的な効果と法規・設備上の負担を比較して判断することが重要です。
レストラン・宴会場との複合用途に注意する

ホテルには、次のような施設が併設される可能性があります。
- レストラン
- カフェ
- 宴会場
- 多目的ホール
- 売店
- ラウンジ
- スパ・大浴場
- フィットネス
- 地域交流スペース
- コワーキングスペース
これらの施設には、宿泊者以外の人も訪れます。
そのため、客室部分とは利用時間、利用人数、入退館管理、避難形態が異なります。
4つの動線を分ける
ホテルのエスキスでは、少なくとも次の動線を整理します。
| 動線 | 主な利用者 | 計画上のポイント |
|---|---|---|
| 宿泊者動線 | 宿泊者 | フロントから客室EVまで明快にする |
| 一般来館者動線 | 飲食・宴会利用者 | 客室階へ不用意に入らないようにする |
| 従業員動線 | フロント・清掃・厨房スタッフ | バックヤード内で連続させる |
| 搬入動線 | 納品・リネン・廃棄物回収 | 正面玄関やロビーと分離する |
避けたい計画
- 厨房への搬入が正面玄関を通る
- リネン搬送が宿泊者用EVに集中する
- 宴会場利用者が客室用EVホールを通過する
- 従業員がロビーを横断しないとバックヤードへ行けない
- ごみ庫への搬出が車寄せと交差する
- レストラン利用者が自由に客室階へ上がれる
これらは法令違反とは限りませんが、ホテルとしての運営、安全性、セキュリティが不十分な計画と判断される可能性があります。
「計画の要点等」では、例えば次のように説明できます。
宿泊者、一般来館者、従業員及び搬入業者の動線を明確に分離し、客室部分のセキュリティと円滑なホテル運営に配慮した。
バリアフリーは玄関から客室まで連続させる

令和8年課題では、バリアフリーへの配慮が明示されています。
ホテルでは、車椅子使用者用客室だけを設けても、バリアフリー計画としては成立しません。
次の経路を連続させる必要があります。
flowchart LR
A["車椅子使用者用駐車場"] --> B["主要出入口"]
B --> C["ロビー・受付"]
C --> D["対応エレベーター"]
D --> E["客室階廊下"]
E --> F["車椅子使用者用客室"]
実務でもハンディキャップトイレがあるだけで、そこに車椅子使用者到達できないような計画が散見されます。
配置図で確認すること
- 車椅子使用者用駐車施設の位置
- 駐車場から主要出入口までの距離
- 雨に濡れにくい経路
- 段差の有無
- 敷地内通路の幅員と勾配
- 車寄せから玄関までの安全性
1階平面図で確認すること
- 主要出入口の有効幅員
- 風除室内での車椅子の転回
- 受付カウンターの利用しやすさ
- 車椅子使用者用便房
- レストランやラウンジへの経路
- エレベーターまでの段差のない経路
客室階で確認すること
- エレベーターから客室までの有効幅員
- 車椅子使用者用客室の位置
- 客室扉の有効幅員
- ベッド周囲の移乗スペース
- 浴室・便所の利用しやすさ
- 客室内の転回スペース
一定規模以上のホテルでは、バリアフリー法に基づき、車椅子使用者用客室の設置が求められます。代表的には、床面積2,000㎡以上かつ客室総数50室以上のホテル・旅館では、客室総数の1%以上が基準となる場合があります。
ただし、実際には地方公共団体の条例による対象規模の引下げや上乗せ基準もあります。試験では、問題文で要求される客室数や仕様を最優先してください。
また、2025年6月1日には、便所や駐車場などに関するバリアフリー基準が改正・施行されています。最新資料は、国土交通省「建築物におけるバリアフリーについて」で確認できます。
客室の採光・換気・排煙を混同しない

ホテル客室を計画するときは、採光、換気、排煙を分けて考える必要があります。
これらは似ているように見えますが、目的も基準も異なります。
| 項目 | 主な目的 | 計画への影響 |
|---|---|---|
| 採光 | 室内の明るさ | 外壁、窓、隣棟間隔 |
| 換気 | 衛生環境の確保 | 窓、機械換気、設備シャフト |
| 排煙 | 火災時の煙排出 | 排煙窓、機械排煙、区画 |
| 空調 | 温熱環境の確保 | 機械室、室外機、ダクト |
| 非常用照明 | 停電・避難時の視認性 | 廊下、階段、居室 |
ホテルの客室については、住宅の居室と同じ採光規定をそのまま当てはめるとは限りません。一方で、居室としての換気や、建物条件に応じた排煙設備等の検討は必要です。
ただし、製図試験では「法的に窓が必須か」だけで判断すべきではありません。
ホテルの商品性や居住性を考えれば、通常は客室を外壁に面して配置し、窓を設けるのが自然です。
つまり、押さえておきたいのは次の考え方です。
法規上の最低条件と、ホテルとして望ましい計画は必ずしも同じではない。
採光・眺望・プライバシーを確保しながら、客室を外周部に合理的に配置することが、ホテル課題の基本になります。
設備スペースを後回しにしない

ホテルは、一般的な事務所よりも設備負荷が大きい建物です。
主な設備として、次のものが挙げられます。
- 客室ごとの給水・排水
- 給湯設備
- 浴室・便所の換気
- 客室空調
- 厨房給排気
- ランドリー設備
- 消防設備
- 非常用電源
- 受変電設備
- エレベーター
- 情報・通信設備
- セキュリティ設備
客室の水回りを上下階で揃える
客室階が複数ある場合、ユニットバスや便所の位置を上下階で揃えることが重要です。
水回り位置が階ごとにずれると、次の問題が生じます。
- 排水管の横引きが増える
- 梁と配管が干渉する
- 天井ふところが不足する
- PSの数が増える
- 維持管理が難しくなる
- 漏水時の影響範囲が複雑になる
基準階をつくり、客室ユニットとPSを上下階で統一すると、設備計画と構造計画を合理化できます。
厨房排気の位置に注意する
レストランを設ける場合は、厨房排気のルートも重要です。
厨房を建物中央部に配置すると、排気ダクトを屋上まで立ち上げるためのDSが大きくなります。また、排気口の位置によっては、客室窓や外気取入口へ臭気が回り込む可能性があります。
厨房は、次の関係を考えて配置します。
- 搬入口
- 食品庫
- ごみ庫
- レストラン
- 排気DS
- 屋上排気口
- 客室窓
- 外気取入口
製図試験で設備ルートを詳細に描く必要はありませんが、設備的に成立しない位置へ厨房を押し込まないことが重要です。
セキュリティは動線計画として表現する

令和8年課題では、セキュリティへの配慮も明示されています。
ホテルのセキュリティは、防犯カメラを設置すると書くだけでは不十分です。
より重要なのは、平面計画によって、宿泊者以外が客室階へ容易に侵入できないようにすることです。
計画上のポイント
- フロントから主要出入口を見通せるようにする
- フロントから客室用EVホールを確認できるようにする
- 宴会場・レストラン利用者と客室動線を分ける
- バックヤードから客室部分への出入口を管理する
- 従業員用出入口を正面玄関と分離する
- 客室廊下への進入をカードキー等で管理できる構成とする
- 既存建築物との接続部を管理できるようにする
「計画の要点等」では、次のようにまとめられます。
フロントから主要出入口及び客室用エレベーターホールを見通せる配置とし、一般来館者が客室階へ不用意に進入しないよう、宿泊者動線と宴会・飲食利用者動線を分離した。
既存建築物の現状保存はどう考えるか

令和8年課題で特に注目したいのが、既存建築物の現状保存という表現です。
これは、単純な既存建築物の解体・建替えではなく、既存施設、歴史的建築物、外構、樹木などを残しながらホテルを計画する可能性を示唆しています。
ただし、公表文だけでは、既存建築物の用途や規模、ホテルへの転用の有無までは分かりません。
考えられる出題パターン
- 既存建築物をラウンジやレストランとして活用する
- 既存建築物にホテル棟を増築する
- 歴史的な外観や壁面を保存する
- 既存施設を地域交流機能として残す
- 既存樹木や庭園とホテルを一体的に計画する
既存建築物が出たときの確認事項
- 既存部分と新築部分の接続位置
- 床レベルの違い
- バリアフリールート
- 防火区画
- 避難経路
- 構造的な接続・分離
- 設備供給の方法
- セキュリティ区画
- 保存対象への工事影響
- 新旧建物の動線上の役割
既存建築物は、単に「残した」だけでは評価されにくいでしょう。
ホテルの機能や周辺環境と結び付け、例えば次のような意味を持たせることが重要です。
- 既存建築物を地域に開かれたラウンジとして活用する
- 保存建物を庭園と一体化したレストランにする
- 新築ホテル棟のロビーから既存建築物を視認できるようにする
- 新旧建物間に中庭を設け、保存対象を象徴的に見せる
一方で、保存を優先しすぎて避難やバリアフリーが不成立になってはいけません。
「保存すること」と「法的・機能的に成立させること」を同時に満たす必要があります。
旅館業法と消防法はどこまで試験で考えるべきか

実際のホテル設計では、建築基準法以外にも多くの法令が関係します。
- 消防法
- 旅館業法
- バリアフリー法
- 都市計画法
- 景観法・景観条例
- 建築基準条例
- 火災予防条例
- 駐車場条例
- 食品衛生法
- 公衆浴場関係法令
- 省エネ関係法令
しかし、製図試験でこれらの個別基準をすべて計算する必要はありません。
受験生が優先すべきこと
消防法については、次の設備を設置できる合理的な計画にしておきます。
- 自動火災報知設備
- スプリンクラー設備
- 屋内消火栓設備
- 誘導灯
- 非常放送設備
- 連結送水管
- 非常電源
旅館業法については、自治体条例により具体的な取扱いが異なるため、試験では次の基本を意識すればよいでしょう。
- 客室として適切な広さと衛生環境
- フロント・管理機能
- 便所、洗面、浴室等の衛生設備
- 宿泊者を管理できる動線
- 清掃・リネン交換を行えるバックヤード
- ごみや汚物を適切に搬出できる動線
試験対策としては、個別設備の設置数を暗記するより、消防設備やホテル運営を妨げない平面をつくることが優先されます。
法規の知識を「答案に落とし込む練習」が必要

ホテル課題では、法令集を読んで条文を理解するだけでは不十分です。
本試験では、限られた時間の中で、次の作業を同時に進めなければなりません。
- 問題文を読み取る
- 法規条件を整理する
- 階段・EV・PSを配置する
- 客室数を確保する
- 各動線を分離する
- 構造グリッドを整える
- 面積を調整する
- 図面を完成させる
- 計画の要点等を記述する
つまり、必要なのは単なる暗記ではなく、法規条件をエスキスへ変換する反復練習です。
独学で学習する場合でも、週ごとに次のようなテーマを決めると進めやすくなります。
- 今週は直通階段と歩行距離
- 次週は客室基準階と設備シャフト
- その次は低層部のゾーニング
- 最後に既存建築物との接続を含む通し課題
オンライン講座を活用する選択肢
仕事や家庭と両立しながら受験する場合は、通学時間を確保すること自体が難しいこともあります。
そのような受験生には、スマートフォンやパソコンで学習を進められるSTUDYing(スタディング)の一級建築士講座も選択肢になります。
動画講義を細かな単位で視聴できるため、通勤時間や昼休みを使って法規・構造・施工などを復習しやすいのが特徴です。
ただし、設計製図試験では、動画を見るだけでなく、実際に手を動かしてエスキスと作図を繰り返すことが欠かせません。
そのため、
講義で考え方を整理し、課題演習で答案化する
という使い分けが現実的です。
自分だけで学習範囲やスケジュールを組み立てるのが難しい場合は、講座のカリキュラムを学習の軸にしつつ、ホテル課題については別途、平面計画と法規チェックの反復量を確保するとよいでしょう。
ホテル課題のエスキス法規チェックリスト

最後に、答案を見直す順番に沿ってチェック項目を整理します。
配置計画
- 用途地域や建築可能用途を確認したか
- 建蔽率・容積率の条件を満たしているか
- 接道条件を確認したか
- メインアプローチと搬入動線を分離したか
- 車寄せから玄関まで安全に移動できるか
- 車椅子使用者用駐車場から段差なく到達できるか
- 消防活動や避難に必要な空地を妨げていないか
- 延焼のおそれのある部分を意識したか
- 既存建築物や既存樹木を適切に保存しているか
1階平面図
- 玄関とフロントの関係が明快か
- フロントから出入口とEVホールを見通せるか
- 宿泊者と一般来館者の動線を整理したか
- 搬入・サービス動線を分離したか
- 階段から屋外まで安全に避難できるか
- 車椅子使用者用便房を適切に配置したか
- 厨房と搬入口、食品庫、ごみ庫が連続しているか
- 防火戸や避難経路を家具で塞いでいないか
客室階平面図
- 必要な数の直通階段を確保したか
- 2つの階段を適切に離したか
- 最遠客室の奥から歩行距離を確認したか
- 重複距離が長くなっていないか
- 行き止まり廊下を短くしたか
- 廊下の有効幅員を確保したか
- 階段、EV、PSの竪穴区画を考慮したか
- 車椅子使用者用客室まで段差なく到達できるか
- 水回りとPSが上下階で揃っているか
- 客室扉と柱型、設備スペースが干渉していないか
- 客室用EVとサービス用動線を整理したか
断面図
- 階段が上下階で整合しているか
- 吹抜けの範囲と区画を説明できるか
- 客室の水回りとPSが上下階で揃っているか
- 必要な階高と天井高を確保したか
- 大梁と設備配管が著しく干渉しないか
- 屋上設備を合理的に配置したか
- 既存建築物と新築部分の高さ関係が分かるか
- 省エネルギーに配慮した断面構成になっているか
面積表
- 建築面積が条件内か
- 各階床面積と延べ面積が条件内か
- 平面図と面積表が整合しているか
- 吹抜けを床面積へ算入していないか
- ピロティや車寄せの扱いを確認したか
- バルコニー、庇、屋外階段等の算入判断を確認したか
- 既存部分と新築部分の面積を混同していないか
計画の要点等
- 避難安全性を具体的に説明したか
- バリアフリールートを連続的に説明したか
- 宿泊者・一般客・従業員・搬入動線の分離を説明したか
- セキュリティへの配慮を平面計画と結び付けたか
- 客室の給排水・換気計画を説明したか
- 既存建築物を保存する意図を説明したか
- 省エネルギー・CO₂削減策を具体的に記述したか
- 構造グリッドと客室モジュールの関係を説明したか
まとめ|客室を並べる前に、法規でホテルの骨格をつくる

ホテル課題では、客室数を多く確保することだけが正解ではありません。
宿泊者は建物に不案内であり、就寝中に火災が発生する可能性もあります。そのため、まず優先すべきなのは、宿泊者が安全かつ分かりやすく避難できる建物をつくることです。
エスキスでは、最初に次の要素を決めます。
- 直通階段
- エレベーター
- 客室廊下
- 防火区画
- PS・DS
- バリアフリールート
- 宿泊者・一般客・従業員・搬入動線
その骨格の中に、客室、ロビー、レストラン、宴会場などを配置していくと、計画が安定します。
また、令和8年課題では、既存建築物の現状保存、省エネルギー、CO₂排出量削減、セキュリティなども明示されています。
単に「法規上入っている答案」ではなく、法規、運営、構造、設備、環境を一体として説明できる答案が求められるでしょう。
客室を並べてから法規を確認するのではなく、法規によって建物の骨格をつくる。
この考え方を持って、まずは階段、避難経路、防火区画、バリアフリールートを色分けしながら、ホテルの基準階を繰り返し練習してみてください。


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